韓国の音楽市場を牽引し続ける韓国の4大芸能事務所、HYBE、SMエンターテインメント、JYPエンターテインメント、YGエンターテインメント。2024年も株価上昇が見込まれている。米国市場狙うHYBEとJYPエンターテインメントに注目だ。連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」とは
BLACKPINKの再契約で株価急騰
K-POPガールズグループBLACKPINKが所属事務所のYGエンターテインメント(以下、YG)とグループ活動に対する再契約を結んだ。
K-POPアイドルグループの場合、デビューが決まると所属事務所と「7年契約」を結ぶケースが多い。それは、韓国の公正取引委員会が2009年に制定した「大衆文化芸術人 標準専属契約書」で定められている最長の契約年数が7年だからだ。
2016年8月にデビューし、世界的人気を誇る大物アーティストになったBLACKPINKは、言うまでもなくYG最大のキャッシュカウである。
だからこそ、彼女たちとYGとの専属契約が満了した2023年8月以降、再契約の有無をめぐって、メンバーの移籍など様々な説が浮上した。それにともない株価もかなり不安定だったが、再契約の発表当日、YGの株価は前日比25.63%も上昇。「前もってYGの株を買っておけばよかった」と嘆く声も聞かれたほどだった。
K-POPの現地化
BLACKPINKが再契約を結び、ひとまず危機を回避したYGの動向も注目だが、いま韓国の多くの証券会社がトップピックとして挙げるエンタメ銘柄は「HYBE」と「JYPエンターテインメント」(以下、JYP)である。
特に世界的なK-POPボーイズグループ・BTSを擁するHYBEは、2024年末に「株価大爆発」が見込まれている。
というのも、2023年9月にはBTSメンバー全員の2度目の再契約が無事に行われ、12月12日をもってメンバー全員が兵役期間に入ったことで、先行き不透明なこともなくなった。
全メンバーたちが再び揃うのは2025年6月の予定で、同年末からグループ活動を再開するとみられている。
その時、世界中のBTSファンによる空前のリベンジ消費が起こる可能性があるため、その動きが2024年末の株価に予め反映されると分析されているのだ。
また、BTSの活動空白期間中もHYBEの実績は上昇傾向が続く見込みだ。
韓国のMeritz証券は2023年11月、「風にも揺れない根の深い木」と題したHYBEのレポートを発表。BTSの再契約の有無・兵役という風が吹いたが、地道なM&Aとグローバルなレコード会社とのコラボ、世界トップレベルの作曲家・プロデューサーたちと築いたネットワークなどでHYBEの安定した成長が期待されるという楽観的な内容だった。
HYBEのアーティストは「購買力の高いアメリカ市場での需要が高い」ことから、2024年デビュー予定の新人グループの利益成長も大きいと見られる。
HYBEは米国市場でメジャーレーベルになるという目標のもと、米ゲフィン・レコードと手を組んでアメリカ現地でのグローバル・ガールズグループ・プロジェクト「ドリーム・アカデミー」を2023年9月から12週にわたって実施した。
このプロジェクトを通じてデビューメンバー6人が決まり、彼女たちは「KATSEYE(キャッツアイ)」というグループとしてHYBEとユニバーサル ミュージック グループの合弁法人「HYBE x Geffen Records」からデビューする。
いわゆる「K-POPの現地化」戦略だ。
HYBEはすでに日本法人「HYBE LABELS JAPAN」を通じてボーイズグループ「&TEAM(エンティーム)」をデビューさせている。日本で成功したノウハウを今度はアメリカに活かすと思われる。
この現地化戦略が期待されているのは、JYPも同じだ。
韓国ではTWICE、日本ではNiziUを輩出し“ガールズグループの名門”と呼ばれるJYPは、2024年にアメリカで6人組ガールズグループ「VCHA」をデビューさせる。また、『Nizi Project Season 2』から誕生する日本の新しいボーイズグループと、中国練習生グループ「Project C」もデビューする予定だ。
2023年12月に韓国・大信証券が発行したJYPの新規レポートにおいて、JYPの現地グループ・ローンチについて次のように楽観的な分析がされていた。
「現地化グループは韓国でデビューした新人と比べてロイヤルファン層作りは難しいシステムだが、K-POPに対する認識改善および海外ファンの購買力上昇に直接的なきっかけになると予想される。そのうえ、アメリカ、日本、中国は音楽市場の規模や購買力において未来潜在的な成長価値が高い」
TWICEの生みの親であり、JYPの総合プロデューサーであるJ.Y. Parkはこのような戦略を「K-POPの未来」と呼び、今後もK-POPの現地化戦略を進めていく意思を表している。
一部の専門家の間ではK-POPの成長停滞やマンネリ化などを理由に「K-POPの危機」も語られている一方で、「K-POPの未来」を先導するために着実に準備を進め、それを形にしようとする関係者たちも少なくない。2024年、K-POP市場の見通しは楽観的のようだが、果たしてその行方はいかに。
■著者・李ハナ
韓国・釜山(プサン)で生まれ育ち、独学で日本語を勉強し現在に至る。『スポーツソウル日本版』の芸能班デスクなどを務め、2015年から日本語原稿で韓国エンタメの最新トレンドと底力を多数紹介。著書に『韓国ドラマで楽しくおぼえる! 役立つ韓国語読本』(共著作・双葉社)。
■連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」とは
ドラマ『愛の不時着』、映画『パラサイト』、音楽ではBTSの世界的活躍など、韓国エンタメの評価は高い。かつて「韓流」といえば女性層への影響力が強い印象だったが、今やビジネスパーソンもこの動向を見逃してはならない。本連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」では、仕事でもプライベートでも使える韓国エンタメ情報を紹介する。