ENTERTAINMENT

2022.08.12

『梨泰院クラス』に見る、若者ウケするリーダー像とは【ネタバレあり】

2020年のコロナ禍、Netflixで配信され、『愛の不時着』とともに話題となり、一大ブームを巻き起こした『梨泰院クラス』。そのリメイク版『六本木クラス』(テレビ朝日系)が、竹内涼真ほか新木優子、香川照之、平手友梨奈ら俳優陣を迎え、現在放送・配信中だ。そこで改めて、多くの人を魅了したパク・セロイのリーダー像に迫る。連載【ビジネスパーソンのための韓タメ最前線】とは……

Netflixシリーズ『梨泰院クラス』

Netflixシリーズ『梨泰院クラス』独占配信中。

パク・セロイが示す真のリーダーシップ

現在放送中の『六本木クラス』(テレビ朝日系)の影響により、韓国オリジナル版『梨泰院クラス』も再び注目を浴びている。

ドラマをひと言でまとめると「どん底に突き落とされた青年による華麗なる復讐劇」。主人公パク・セロイ(パク・ソジュン)は父親の死を隠蔽し、自分をどん底に突き落とした大手飲食チェーン・長家の会長チャン・デヒ(ユ・ジェミョン)を土下座させるという目標を果たす。

中卒で前科持ち、天涯孤独。世間一般でいえば「負け組」に属するかもしれないが、セロイは底なしの魅力を持つキャラクターだ。正義感が強く、情に厚く、自分の信念を貫き通す。特に注目すべきは宿敵のチャン会長と対比をなすリーダーシップだ。居酒屋「タンバム」の経営者となったセロイが見せたのは、若者の、若者による、若者のための理想のリーダー像だった。

彼がよいリーダーであることを示した最初のエピソードは、高校を卒業したばかりのチョ・イソ(キム・ダミ)をタンバムのマネージャーに採用したことだろう。SNSの人気インフルエンサーだったイソは、苦戦が続いていたタンバムの改善すべき点をビシバシ指摘する。セロイは年下の彼女にも学ぶ姿勢を持ち、決して威張らなかった。イソの年齢や履歴はさておき、能力を評価したおかげで自分を信じてついてきてくれる"諸葛亮"のような助言者をゲットする。

ただ、その助言者の提言を盲目的に受け入れるほど、セロイは主体性がないわけでもない。

例えば、料理長マ・ヒョニ(イ・ジュヨン)が実はトランスジェンダーで、料理の腕もイマイチであることが問題になった場面。イソはヒョニを「クビにして」とセロイに提案した。このままじゃお店は「すぐに潰れる」と。

ところがセロイがとった行動はみんなの予想を超えるものだった。普段の倍の金額の給料をヒョニに渡して「2倍努力しろ」と言う。また、英語ができると思って採用した接客スタッフのトニー(クリス・ライアン)が、実は英語が喋れないとわかった時も「英語を勉強しろ」と言う。

それは決して命令や強要ではない。「タンバムが好き」という2人の意向を聞いたうえでの提案だった。お店にふさわしくない人間を切り捨てるのではなく、お店にふさわしい人間になれるよう応援する。迎え入れた仲間への信頼と包容力、勇気がなければ、とてもじゃないができないことだろう。人を大切にするセロイの強い信念が、人を動かすリーダーシップへと化したのだ。

その信念は、タンバムが移転の危機を迎えた時も発揮された。

梨泰院の街からタンバムを追い出そうと、ビルの新しいオーナーになったチャン会長。そのことがみんなに知られると、タンバムで働いていたチャン会長の次男・グンス(キム・ドンヒ)は負い目を感じる。その結果、イソに背中を押されるかたちで、タンバムを辞めるのを条件に父親に取引するという話になった。

商売とはもともと利益を追求することで、グンスが辞めれば万事オーケーだというイソ。しかし、その意見に激怒したセロイはイソがつけていたマネージャーの名札をもぎ取ってこう言い放つ。

「お前はマネージャー失格だ。それが商売なら、やらない」

ビジネスの世界で次々とやってくる危機をどう乗り越えるか。セロイは実益よりも仲間との共闘を選んだ。もちろん、彼には長家の株を売って投資金を回収し、ビルを買うという"プランB"があったが、それも彼にとっては長年の計画が狂う難しい決断だったはず。ブレない信念を持つセロイのカリスマ性は、人を惹きつける魅力がある。もし自分がグンスなら、一生セロイについて行こうと思うに違いない。

現実世界にはセロイのような人は存在しないかもしれない。あくまでもドラマのキャラクターにすぎないことを、視聴者は知っている。しかし、彼が示したリーダーの在り方は単なるファンタジーではない。多くの若者が待ち望んでいる現実だ。

Netflixシリーズ『梨泰院クラス』

『梨泰院クラス』
韓国/2020年
原作・制作:キム・ソンユン、チョ・ガンジン
出演:パク・ソジュン、キム・ダミ、ユ・ジェミョン、クォン・ナラ、キム・ドンヒ、アン・ボヒョンほか
Netflixシリーズ『梨泰院クラス』独占配信中。

 

■『梨泰院クラス』の名場面をピックアップ

■連載【ビジネスパーソンのための韓タメ最前線】とは……
ドラマ『愛の不時着』、映画『パラサイト』、音楽ではBTSの世界的活躍など、韓国エンタメの評価は高い。かつて「韓流」といえば女性層への影響力が強い印象だったが、今やビジネスパーソンもこの動向を見逃してはならない。本連載【ビジネスパーソンのための韓タメ最前線】では、仕事でもプライベートでも使える韓国エンタメ情報を紹介する。

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TEXT=李ハナ(ピッチコミュニケーションズ)

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