幼少期に兄から「ジブリを見るな」といわれた漫画家・宮川サトシは、40歳にしてなお、頑なにジブリ童貞を貫き通してきた。ジブリを見ていないというだけで会話についていくことができず、飲み会の席で笑い者にされることもしばしば。そんな漫画家にも娘が生まれ、「自分のような苦労をさせたくない」と心境の変化が……。ついにジブリ童貞を卒業することを決意した漫画家が、数々のジブリ作品を鑑賞後、その感想を漫画とエッセイで綴った連載をまとめて振り返る。
『風の谷のナウシカ』
正直、想像していた以上にジブリ童貞を卒業することには抵抗がありました。30年童貞を貫けば魔法が使える、なんてよく言いますが、ジブリ童貞を40年以上貫いた方がよっぽど魔法に近づく気がするというか、ほうきで飛べるようになるかもしれないのに俺は…なんて、アホみたいな後悔をわりと本気でしていました。
ジブリ童貞を卒業すると決めてから、今の情報過多社会において“皆が知ってることを知らないということ”は逆に個性、むしろ新しい価値なのかもしれない、そんなことを考えるようになりました。未開封の宝物を開封する罪深さ、新築の家にお邪魔して、家主より先に新品のトイレにオシッコをしてしまった時のような、取り返しのつかない重み。
私はGOETHEの担当S氏から送られてきた「ナウシカ」のBlu-rayのパッケージを開封しながら、その重みをひしひしと感じていました。なかなか剥がせないBlu-rayパッケージのビニール、それを理由に観るのを辞めてしまうのもありかもしれない…引き返すなら今しかない、そう思いつつも私は覚悟を決め、ビニールを前歯でコリコリと破いて開封し、そして再生ボタンを押したのでした。
続きはこちら
『となりのトトロ』
ナウシカの次は何を観るべきかと読者の皆さまに伺ったところ、『ラピュタ』、その次に『トトロ』というお声が多かったのですが、トトロをお勧めしてくださった多くの方が「ぜひ娘さんと観てほしい!」という理由を添えてくださいまして、育児漫画も描いているぐらい現在子育て真っ最中の自分には、あぁ、これはいいなと、まだいくらかジブリに抵抗もあるし、娘を言い訳にできるのはとても都合がいいなと思いまして……今回はすんなり『となりのトトロ』でジブらせていただくことになりました。育児の一環として、アンパンマンを娘に観せる感覚で、私は娘とトトロを観るのだと思ってください。
余談になりますが、アンパンマンもミッキーマウスも、初めて娘に観せる時は、いくらか葛藤がありました。おそらくこれも兄に言われた「大衆文化にばかり触れていると、普通の人間になってしまうぞ」という例の一言が影響しているのでしょうが、私自身も元来、余計な心配ばかりする性格でして……。
続きはこちら
『紅の豚』
最近、ブラックの珈琲をカッコつけとか見栄のためじゃなくて、心から「美味しい」と思えるようになりました。そりゃレモンスカッシュも美味しいですが、加齢と共に「甘み以外の美味しさ」の窓口も増え、昔は「なんでわざわざ食べるんだよ……」と思っていた銀杏やセロリ(浅漬け)もどんどん美味しく感じられるようになりました。おっさん化が進むことは、そんなに悪いことばかりではないのだなと。
前回のトトロを鑑賞した後、SNS上で「次は大人向け作品である『紅の豚』なんかどうですか?」というご意見をいただきまして、トトロこそ本当の意味で大人に向けた作品だとも思ってたけど、まだその上があるの? なんて、ちょっとジブリをわかってきましたよ的なことを思いつつ、ブラック珈琲が楽しめるようになった勢いに任せて、意気揚々と「紅の豚」をチョイスしたのでした。
続きはこちら