俳優・滝藤賢一による本誌連載「滝藤賢一の映画独り語り座」。約6年にわたり続いている人気コラムにて、これまで紹介した映画の数々を編集部がテーマごとにピックアップ。あなたの人生と共鳴する一本をご提案! 今回は、スポーツ映画編
『ペレ 伝説の誕生』
父親の在り方と理想の教育をここに見出したり!
ボールがなければ、靴下や端切れを丸めて作る。ユニフォームもシーツをつなぎ合わせた手作り、普段から裸足なのでスパイクももちろんない。グラウンドに行かなくても、密集するバラック小屋の屋根にボールを蹴り上げ、地面に落ちないよう、リフティングとパスでつなげるゲームにする。子供は遊びの天才ですからね。環境が整っていないから”できない”は言い訳にならないんだなぁ――。
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『フォックスキャッチャー』
アカデミー賞男優賞超有力! その壮絶な“演技”とは!?
役者として、僕もこんな作品に出合いたい、と嫉妬するくらいの名作でした。無駄をそぎ落として演じれば、伝えたい神髄だけが残るという滅多にない脚本なんです。その象徴が冒頭。主人公は喋らないし、BGMもない。殺風景な部屋でお湯を沸かし、インスタント麺を手でクシャッと潰す。このシーンだけで主人公が不遇なことが一瞬でわかって引きこまれた。演技って“足していく”ことより“引いていく”ことのほうが難しいと僕の尊敬する俳優さんが仰っていたのですが、この脚本は役者に、極限まで“引く”ことを求めているなと。
1984年のロサンジェルス・オリンピックで金メダルに輝いたレスリング選手、マーク・シュルツの身に起きた事件の映画化だそうです。僕が感じたテーマは「分岐点」と「コンプレックス」とでも言いましょうか。マークには同じく金メダリストの兄、デイヴがいて、兄を越えられないジレンマがある。そこに大財閥の御曹司、ジョン・デュポンからスポンサー契約の話が来る。弟はその話に乗るけれど、兄は断るんです。妻と子供の環境を変えたくないと。僕も子供が4人いるから、家族を一番に思う気持ちが理解できますし、そのことで弟のコンプレックスを刺激してしまい悲劇へとつながるところも響きました――。
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『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』
テニスの歴史的名勝負の裏に隠された、男たちの葛藤に心打たれる!
「氷の男と炎の男」とタイトルにはあるのですが、本質的にはとても似ているふたりのライバル関係を描いた実話のドラマです。
滝藤、乗馬や縄跳びなど自分ひとりでもできるスポーツは好きですが、シャイゆえに対面スポーツは避けてきて、テニスにも疎い。だから、ボルグもマッケンローのことも、〝テニス史上、屈指の名試合〞と言われる1980年のウィンブルドン選手権のことも、まったく知りませんでした。だから単純にドラマティックな試合の展開にワクワクしました――。
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『アンダードッグ』
周りから何と言われようが諦めきれない男たちの奮闘に心揺さぶられる
滝藤はこの(2020年)秋冬、大河ドラマ『麒麟がくる』では純朴な将軍を演じ、その1時間半後に放送される『極主夫道』では元極道のクレープ屋さんを演じています。両作品で滝藤賢一44歳、脱がせていただきました。過去に3年ボクシング、今はキックボクシングに明け暮れ、自粛期間はひたすら筋トレの日々でした。おかげで今では懸垂がスイスイできるようになりました。フフ、自慢です。なので、ボクシング映画を観ると、“うぉ! 出たかった! なぜ、私を呼んでくれないんだ!”と嫉妬で気が狂いそうになるのでした。
今回ご紹介するのは、安藤サクラさんが出演された『百円の恋』の監督・武 正晴×脚本・足立 紳さんコンビの最新作『アンダードッグ』です。『百円の恋』素晴らしかったなぁ。あまりの面白さに立て続けに3回観てしまった。そして本作、『アンダードッグ』は前後編合わせて上映時間は276分! 日本チャンピオン戦で負けて以降、かませ犬としてリングに上り続ける主人公・末永 晃に森山未來さん。中年期に差しかかりチャンピオンどころか一勝すら果てしなく遠い。デリヘル嬢の送り迎えのドライバーをしながら、リングに立ち続ける。殴られても殴られてもボクシングというステージにしがみつく様が、俳優としてまったく仕事がなかった時に人をやっかみ、暴言を吐きまくり、言い訳ばかりしていた自分の若い頃に重なる。私も先の見えないなかで俳優という職業にしがみつきました。名古屋に帰ってきなさいと親に諭されても心は動かなかった。諦めなくてよかったと、今は心から思います。
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Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。初のスタイルブック『『服と賢一 滝藤賢一の「私服」着こなし218』』(主婦と生活社刊)が発売中。滝藤さんが植物愛を語る『趣味の園芸』(NHK Eテレ)も放送中。