連載「滝藤賢一の映画独り語り座」。今回は『ペレ 伝説の誕生』を取り上げる。
父親の在り方と理想の教育をここに見出したり!
映画の影響力は大きいものですね。前回で紹介した『葛城事件』を見て、子育ての方針に迷走していた滝藤ですが、ひと筋の光が差し込んできました。『ペレ 伝説の誕生』。これです! 僕が理想とする父親像は。サッカーの神様と言われるペレことエドソン・アランチス・ドゥ・ナシメント氏の半生を描いた作品。1950年、ブラジルの環境は厳しく、映画『シティ・オブ・ゴッド』そのもの。悪に手を染めるか、苦しくてもまっとうに生きていくかは紙一重。それをユーモアたっぷりに描いているんだから憎いです。
ボールがなければ、靴下や端切れを丸めて作る。ユニフォームもシーツをつなぎ合わせた手作り、普段から裸足なのでスパイクももちろんない。グラウンドに行かなくても、密集するバラック小屋の屋根にボールを蹴り上げ、地面に落ちないよう、リフティングとパスでつなげるゲームにする。子供は遊びの天才ですからね。環境が整っていないから"できない"は言い訳にならないんだなぁ......。
ペレの父親は元サッカー選手ですが、病院で患者の排泄物処理をする仕事に従じ、ペレも手伝いを余儀なくされます。空き時間には庭先に実っているマンゴーをボールに見立て、傷まないように優しくリフティングする技術を教えていく。そんな父親の姿が素敵なんです。心に傷を負ったペレに対し、決して無理強いはせず、黙って見せて導く。すべては本人がやる気にならないと何も動かない。忍耐強く待ち、子供を信じる。絶妙な距離感でなんとも心地いい。自分の子供がペレのようになったら......想像するだけで心が震える方も多いはず!
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
俳優。1976年愛知県生まれ。7月1日公開『アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅』では吹き替えで出演。7月放送開始のドラマ『グ・ラ・メ!~総理の料理番~』に出演決定。
■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!
*本記事の内容は2016年6月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なります予めご了承下さい。