ENTERTAINMENT

2021.07.15

『17歳の瞳に映る世界』【滝藤賢一の映画語り座】

男性必見の1本。17歳の少女の 苦しい心の内に胸が締めつけられる

俳優としていくら経験を積み、技術を磨いても、フレッシュな魅力を持つ若手に敵わないことがある。それがこの仕事の面白さでもあるのでしょう。その意味で滝藤、この映画に出てくる俳優たちに白旗を上げます。脱帽です。

ベルリン国際映画祭やサンダンスなど世界の映画祭での受賞数28という破竹の勢いの作品。物語は17歳の女子高生オータムが自身の妊娠を知るところから始まります。舞台のアメリカ、ペンシルベニア州は州法で両親の同意がないと未成年者は中絶ができない。誰にも相談できず、幼い心にすべてを負い、彼女は長距離バスでニューヨークへと向かいます。

これから何が起きるのか。知るのが恐ろしくて、観ているこちらが途中で心折れそうでした。救いは旅をともにする従妹スカイラーの存在。スーパーのレジ打ちのアルバイト仲間でもあります。トイレでオータムが吐いているのを見てすべてを察しますが、詳しくは聞かないし、知ろうともしない。彼女もまた真実を知ることが怖かったのだと思うと、胸が張り裂けそうになります。ただ、この映画、抒情的な芝居がなく、とてもドライで、まるでハードボイルドのような展開なのです。

徹底的なリアリティを感じるのがこのオータム役に抜擢されたシドニー・フラニガンと、スカイラー役のタリア・ライダーの持つ生々しさ。そして特に滝藤の心を揺さぶりまくったのが、実際にニューヨークのヘルスセンターで働く人たちと演じるシーンです。中絶を選択した少女の意思を尊重し、言いにくい質問への返答として「Never(一度もない)」「Rarely(滅多にない)」「Sometimes(時々ある)」「Always(常にある)」のなかから答えてもらう。そのたった5分程度のシーンのやり取りに釘づけになりました。今まで口を閉ざし続けていた彼女の身に起こった出来事が徐々に見えてくる。しかし、すべては説明しない。観客の想像に委ねられている。この5分間で映画すべてを観たといっても過言ではないくらい素晴らしいシーンでした。これぞ、映画の醍醐味だなぁ。

『17歳の瞳に映る世界』main

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『17歳の瞳に映る世界』
望まぬ妊娠をした少女が、両親の同意を必要としないニューヨークへと旅し、中絶手術を受けようとする姿をドキュメンタリータッチで描いた作品。監督のエリザ・ヒットマンと主演のシドニー・フラニガンは映画賞を席捲。一方アメリカにおける中絶の是非は、宗教や政治が絡む複雑な問題で、今作が問いかける題材は賛否両論を巻き起こした。

2020/アメリカ
監督:エリザ・ヒットマン
出演:シドニー・フラニガン、タリア・ライダーほか配給:ビターズ・エンド、パルコ7月16日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。8/20に公開予定の映画『孤狼の血 LEVEL2』に出演。前作に引き続き、警察官・嵯峨大輔を演じる。

COMPOSITION=金原由佳

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