役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!!
『映画監督にはなりたいが、何が撮りたいかはわからない……』強烈に響き、あの頃と重なった
時代は安保闘争に揺れる'60年代。ピンク映画の最前線に助監督として飛びこんだ、20代前半の女性の物語です。門脇 麦さん演じる吉積めぐみをはじめ、登場人物はほぼ実在の人物。滝藤は、残念ながら、モデルとなった方たちとご縁がないのですが、今や日本映画界のレジェンドとなっている方たちの青春群像劇でもあります(各プロフィールは検索してみてください!)。
主人公のめぐみは、当時30代だった若松孝二監督率いる若松プロダクションに友人の伝手で入ります。独立プロで、スポンサーの制約を受けずに自分たちのやりたいことを目指し、表現のタブーも辞さない作品の数々は、当時の若者を熱狂させていました。
この若松監督(井浦 新)が自分を慕う若者にかける言葉がひとつひとつ胸に響くんです。思わず、見ながらメモをとってしまいましたよ。
「理屈は映画に映らない」
「緊張して仕事をしろ」
「何か腹立つことはねえのか」
20代から30代の私は、何が不満かもわからずにただただ文句ばかりを言っていました。人のせいばかりにしてマイナスエネルギーで生きていた。反骨精神だけが自分を支えていて、それがなくなったら自分の存在価値を見失いそうで、いつもギラギラしていた。共演者を全員ライバルだと思い、誰とも口を利かず、殻に閉じこもって、次はどんな芝居をしようかと必死に考えてばかりいました。今や、そんな私はどこへやらですよ……、まん丸です(笑)。
この映画は、何か根本的な大切なものを思いださせてくれる作品でした。あの時の自分に言ってやりたいです。
「君がいる世界はとてつもなく狭い世界だ! そんなところでもがき苦しむことはない。もっと広い世界に飛びだせ!」
そして、「天才に出会ってしまったら、戦う土俵を変えろ」と。勝てないのであれば、自分の土俵に引きずり込んで、勝負すればいいんです。自分に合った場所や自分の戦い方を探すのも、また若者の特権なのだ!
『止められるか、俺たちを』
1960年代、前衛的で、世の中のタブーに斬りこむ作風で一世を風靡した若松孝二監督と、彼の元に集まった若者たちの青春群像劇。ともに若松プロダクション出身の井上淳一が脚本、白石和彌が監督を務め、熱い時代の映画の世界に飛びこんだひとりの女性の約2年にわたる奮闘を描く。
2018/日本
監督:白石和彌
出演:門脇 麦 井浦 新ほか
配給:スコーレ
10月13日よりテアトル新宿ほか全国順次公開