遠い未来の夢物語ではなかった。ソニーとホンダが開発するニューモデルが、2年後には発売されるというのだ。連載「クルマの最旬学」とは……
2年後には全貌が明らかになっている
2023年の新年早々、楽しみなニュースが飛び込んできた。
米国ネバタ州ラスベガスで開催されているテックの見本市「CES 2023」で、ソニー・ホンダモビリティが新ブランド「AFEELA(アフィーラ)」を立ち上げると発表、同時にプロトタイプを披露したのだ。
ソニーとホンダが50%ずつを出資する合弁会社の動向は気になっていたけれど、今回の発表で一歩踏み込んだのは、「2025年前半に先行受注を開始し、同年中に発表を予定。デリバリーは2026年春に北米から開始する」と、受注や納車のタイミングを明らかにした点だ。
つまり、2年後にはデザイン、価格やスペックが明らかになっており、次にサッカーW杯が開催される頃には、ソニー・ホンダモビリティのクルマがアメリカの街を走っているということになる。ちなみに、次のワールドカップはアメリカ、カナダ、メキシコの共催となる。
では、ソニーとホンダが作るクルマはどんなものになるのか? 「CES 2023」で発表された内容をもとに、予想してみたい。
自動運転はレベル3か?
AFEELAというブランドの基本コンセプトは、以下の3本柱になるという。
Autonomy(進化する自律性)、Augmentation(身体・時空間の拡張)、そしてAffinity(人との協調、社会との共生)という、3つのAだ。
まず「Autonomy」、つまり自動運転の領域からいくと、ホンダはすでに世界で初めてレベル3の自動運転をレジェンドで実現している。具体的には、「高速道路で時速30km以下に速度が落ちる渋滞に巻き込まれたときには、ハンドルやブレーキの操作をクルマに任せ、スマホやカーナビを眺めていてもいい。ただし、何かが起きたらすぐに運転に復帰する必要がある」というレベルの自動運転だ。
レベル4も同様に、「高速道路で時速80km以下」など、一定の条件下での自動運転を意味するけれど、「何かが起きても、クルマが全責任を負う」という点が違う。つまり、ドライバーが運転に戻る必要はない。レベル3とレベル4はちょっとした違いのように見えるけれど、両者の間には深くて暗い河が流れている。
あと2年でレベル4を実現できるようになるとは到底思えないので、自動運転に関しては現在のレベル3をブラッシュアップすることになるだろう。
ホンダが蓄積してきた自動運転の知見と、ソニーのセンサー技術などを組み合わせて、たとえば「高速道路で時速100km程度までなら、すべてをクルマに任せることができる。ただし、何かが起きたらすぐにドライバーが運転に復帰する」というあたりが落としどころではないかと推察する。
クルマづくりが根底から変わる
2つめのA、Augmentation(拡張)とは、デジタル技術を活用してリアルとバーチャルの世界を融合、メタバースなどの技術を利用して車内をエンタメ空間、感動空間にすることだという。
けれどもここでポイントとなるのが、2年後の時点だと自動運転がおそらくレベル3にとどまること。ドライバーは緊急時にすぐに運転に復帰する必要があるから、自身のアバターをメタバースの世界に送り込んでショッピンを楽しむ、ということはできないはずだ。おそらく、ドライバーと他のパッセンジャーに提供されるエンタメのコンテンツは別々になる。
助手席や後席に座る方はゲームや高精度画面と高音質の映画配信といったコンテンツが用意され、メタバースの世界で遊ぶこともできるだろう。一方、ドライバーに向けてはAR(拡張現実)の技術を応用した直感で理解できるカーナビなど、エンタメ体験よりも運転体験の充実に重きを置くと予想する。
実は、3つめのAである、Affinity(協調、共生)が、AFEELAというブランドで最も興味深い点だと感じた。自動車産業やさまざまなエンターテインメント企業、あるいはクリエイターと、オープンに取り組む環境を作っていくというのだ。クルマづくりが根底から変わる。
クルマづくりに、これまでになかった集合知という考え方が持ち込まれるわけで、そこからどんな化学反応が生まれるのか、楽しみでならない。
また、集合知で開発したシステムなどを、5Gネットワークを介して継続的にアップデートするという点も興味深い。これが何を意味するかというと、クルマを自分好みに育てることができるということだ。動くシアタールームやラウンジにすることもできれば、高機能移動型オフィスにすることもできる。
現状ではAFEELAというブランド名とコンセプトカー以外、車名もスペックも明らかにされていない。けれどもこんなに発表が楽しみなコンセプトカーは、近年なかった。
Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。
■連載「クルマの最旬学」とは……
話題の新車や自動運転、カーシェアリングの隆盛、世界のクルマ市場など、自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載。