2026年も京都の12会場で展示が行われているKYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭。アントン・コービン、リンダー・スターリング、森山大道など世界的アーティストの作品のほか、今年は南アフリカにスポットを当て、アパルトヘイトを記録した南ア初の黒人フリーランス写真家、アーネスト・コールの作品など、8の国と地域の14組のアーティストが展示。そして若手写真家の作品としては、昨年、ルイナール・ジャパン・アワードを受賞した柴田早理の「Dotok Days」が目を引いた。

ブドウが成熟するかのように時を重ねる女性
ルイナールは1729年に創立した史上最古のシャンパーニュ・メゾン。1896年、アール・ヌーヴォーを代表するアーティストのアルフォンス・ミュシャに宣伝用ポスターを依頼して以降、アートとの結びつきを深めている。KYOTOGRAPHIEにも2016年から協賛を始め、2021年には若手アーティストの発掘・育成を目的にルイナール・ジャパン・アワードを創設。受賞者をメゾンのあるランスに招き、滞在中に新作を創作してもらう「アーティスト・イン・レジデンス・プログラム」を実施している。
柴田早理氏の本作品もこのプラグラムを利用し、2025年秋にシャンパーニュ地方を訪れて撮影されたもの。シチュエーションは紛う方なきシャンパーニュ地方のブドウ畑の中ながら、被写体の人物はセーラー服を着た女学生や野良着姿の女性など日本の片田舎をイメージさせる。じつはこれらの作品は柴田氏のセルフポートレートだ。複数の人物も綿密にポージングを練った上で合成したものという。

富山県生まれ。南砺市の山あいで生まれ育つ。立教大学現代心理学部卒業後、IT企業の金融部門での業務に従事。2025年に南砺市に住居兼アートスペースとして古民家「OSHITOPIA」を開設。これまでインドネシアのプランテーション、アフリカ、モンゴルの草原地帯、タイの山岳地域など多様な土地を訪れ、現地での体験をもとに作品を制作。主に人間と自然の関係、環境の変容、そしてグローバルな経済社会がもたらす影響を主題に、国内外での発表を行っている。
タイトルの「Dotok Days」にある「Dotok」とは、民藝運動を興した柳宗悦が富山県南砺地方の精神風土を表して用いた造語の「土徳」にちなむ。柴田氏は富山県の南砺市で生まれ育ち、進学を機に上京した。そして12年ぶりに故郷へ戻ってきた彼女は、人口減少に伴い町の景色は変わる一方、田畑で汗水流して働き、祭りで豊穣を願い、盆踊りで先祖を供養するなど、支え合い、祈りながら暮らす光景は変わりないことに気がついた。「誕生と喪失は切り離された点ではなく、自分の内側で円をなしている」と理解し、「人生の円環」をテーマにこの作品を制作したという。
遠く離れたシャンパーニュ地方で、南砺で生まれ育った女性の一生を柴田氏自らがその身に背負い、「ブドウが成熟するかのように時を重ねる女性」の姿をセルフポートレートの形で表現した。京都市東山区のASPHODELを会場に、小髙未帆氏(APLUS DESIGNWORKS)の空間デザインによる展示は、1階が子供時代、2階が現役世代、3階がこの世とあの世をつなぐ境界線と時代ごとに進む構成。しかし、展示の最後に登場する光の輪が、人生が点ではなく円であることを暗示する。
また、シャンパーニュ地方のブドウ畑が太古の昔は海の底だったと知り、とても驚いたという柴田氏。森の中に入り、スピリチュアルな何かを感じた場所には、白い五箇山和紙で作ったオリジナルの精霊を置いて撮影している。
今回、ルイナール・ジャパン・アワードを受賞し、KYOTOGRAPHIEで自分の作品が展示されたことで、「作家活動を続けていく自信がついた」と柴田氏はいう。ルイナールのインターナショナル・アート&カルチャー・ディレクターを務めるファビアン・ヴァレリアン氏は、「アワードの受賞が、早理が作家として一歩踏みだすきっかけになったことをとても誇りに思います。これからもコミュニケーションを取り続け、アーティストとしての彼女の成長を見守りたい」と語った。

KYOTOGRAPHIEは2026年5月17日まで開催。柴田早理氏個展会場のASPHODEL1階には土日祝日に限り、ルイナールバーがオープン。ブラン・ド・ブランとロゼがそれぞれグラスで3000円、ボトルで2万円(いずれも税込み)で提供される。作品の世界観を味覚や嗅覚をもって鑑賞することができるだろう。
またこれと並行して東京・麹町の東條會館写真研究所では、柴田氏がルイナール・ジャパン・アワードを受賞するきっかけとなった作品「COSMO PLASTICS」が展示されている。こちらは6月7日まで。あわせて足を運びたい。
KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2026 柴田早理「Dotok Days」Presented by Ruinart
期間:2026年4月18日(土)〜5月17日(日)
会場:ASPHODEL(京都府京都市東山区末吉町99-10)
時間:11:00〜19:00 ※入場は閉館の30分前まで




