デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である」Vo.16。淡路島にある建坪14.5坪に、人生初の屋台をデザインした森田恭通氏。そこに注ぎこんだのはユーモア。「ユーモアはコミュニケーションのうえに成り立つ、ビジネススキルのひとつ」と語る、その真意とは。
ユーモアはコミュニケーションのうえに成り立つ、ビジネススキルのひとつ
デザイナー森田恭通、人生で初めて、至極まじめに屋台をデザインしました。
場所は淡路島西海岸で、外食産業を牽引するバルニバービが展開する、〝食〞をベースとした地方創生プロジェクト「Frogs FARM」内。代表を務める佐藤裕久さんが僕に屋台のラーメン屋のデザインを依頼してくださったということは「森田なら普通の屋台を作るわけはない」と思ってくれたからかもしれません。とにかくまじめに、そして来てくださった方が思わず突っこみたくなるようなデザインを考えました。極端な例でいえば、アストンマーチンに乗った紳士が乗りつけても様になり、軽トラのおっちゃんが食べていても様になる。そんな屋台を思い描きました。
コンセプトは親しみのある「屋台」。通常営業時は屋台を引っぱりだし、建物から屋台が突きだすデザインを提案しました。暗い夜道でお客を引きこむ屋台のオレンジ色の灯をイメージしたオリジナルのペンダントライトは、カバーの上から光が漏れ、ゴールドの天井に反射し、ふんわり優しい灯をともします。
壁はガルバリウム鋼板の波板で覆い、ヴィンテージジーンズのように、クロメート(ゴールドに虹色の発色が美しい)を下地にダメージを施し、敢えて腐食しているように見せています。カウンターの周りに配置したのは、屋台でよく見るビニール製の丸椅子をイメージし、座面をチーク材の削りだし、足をクロメートで仕上げたスツール。重めに設計したスツールは、海岸に吹く強い風でも倒れません。
僕は訪れた人が突っこみたくなるようなユーモアをデザインに落としこむように意識しました。ユーモアは人間関係の潤滑油といわれるほどコミュニケーションには欠かせない存在。ビジネスもコミュニケーションです。一方的では成り立ちません。
僕の仕事に当てはめてみると、デザイナーである僕はボケ担当。僕が作ったデザインを見て、訪れた人が「なんでやねん!(笑)」と突っこむ。突っこまれない一方的なデザインでは僕には意味がないのです。今回の屋台では「なんで屋台がゴールドやねん」「なんでビニールの丸椅子が木でできてんねん」と突っこんでほしい。デザインが面白ければ、店の人や僕がいなくてもお客さんが写真に撮ってSNSに上げてくださったり、話題になることで、新たな客層やマーケットを呼んでくれるからです。
淡路島には妻の実家があり、年に数回訪れます。バルニバービの佐藤さんが地元企業と連携し、地方創生に乗りだしたのは2019年のこと。それまでは何もなかった西海岸に活気が生まれ、地元に雇用が生まれ、人の流れができました。これも佐藤さんのカリスマ性とオリジナリティあっての功績だと思います。
コロナ禍は悪いことだけではありません。今まで見えていなかった日本各地に眠る魅力が少しずつ目覚めてきています。新たな魅力を掘り起こすのはセンスのある経営者であり、目覚めさせる起爆剤がデザインだと僕は思います。
僕自身、今回の仕事で「屋台からホテルまで」という新たなキャッチがつくれました(笑)。地方創生にはまだまだ可能性が秘められています。素晴らしい宝物にユーモアを注ぎこみ、新たなマーケットを生みだしていきたいですね。
Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍し、2019年オープンの「東急プラザ渋谷」の商環境デザインを手がける。その傍ら、’15年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」はこちら。