琵琶湖のほど近くにこぢんまりと佇む日本最小規模の蒸溜所が、吉井和哉氏と限定ウイスキーをつくりあげた。ブレンダー屋久佑輔氏と吉井氏が、味わいに込めた想いを語り合う。
オーケストラを感じる重奏的な味わい
「自身の人生を投影したウイスキーをつくりたい」
長年そう願っていた音楽家・吉井和哉氏が滋賀県の長濱蒸溜所とウイスキーシリーズ「YAZUKA」を生みだしたのは2021年のこと。そのシリーズに、今回新たに吉井氏の楽曲と同名の「BURN」「TALI」が誕生。ブレンダーの屋久佑輔氏は、その世界観を味わいにどう落としこんだのか。
屋久 「TALI」は複雑でメッセージ性のある楽曲だと感じたので、重奏的な味わいを目指しました。シェリーやワイン、ホワイトポートなどを熟成していた多様な樽を使用し、原酒も弊社のものと数種の海外のものをブレンドしました。オーケストラのようにさまざまな楽器でひとつの曲を構成する、そんなイメージです。
吉井 「TALI」は、ドラム以外は自分で演奏しているミニマムな曲。けれど、自分のなかでは「ひとりオーケストラ」という気持ちでいましたから、「オーケストラ」という言葉が屋久さんの口から出て驚きました。
屋久 私も驚いたことがあって、最初のテイスティングの際、吉井さんは「PVを見ながらつくったでしょう?」とおっしゃいましたが、そのとおりで(笑)。
吉井 独特なPVなので、味にも世界観が出ていました。この曲は9・11同時多発テロに衝撃を受け生まれた曲で、僕自身の、THE YELLOW MONKEYから離れていた時期の混乱や不安も表現しています。それを重奏的な味わいにしてくださったんですね。
屋久 一方で「BURN」は、燃えるような情熱をイメージし、樽の内部を蒸溜所内で燃やすチャーリングを施しました。燻製のようなスモーキーなフレーバーを取り入れ、さらにスモーキータイプの原酒も使用しています。
吉井 「BURN」は「TALI」とは正反対で、情熱的な曲。この対照的な2曲がウイスキーになったというのが感慨深いです。
酒も音楽もつくり手の人間性が出るもの。決して誤魔化しはききません
屋久 ウイスキーの味の表現方法に「華やか」という言葉があるのですが、まさに吉井さんのイメージそのもの。「TALI」でワイン樽やシェリー樽を使ったのは、その華やかさを表現するためのアイデアでした。
吉井 ひと言に「華やかさ」といっても、つくり手が違えば味は変わります。酒も音楽も、つくり手の人間性が出るから、決して誤魔化しがきかない。それに樽にこだわるのって、音楽でいう楽器にこだわる、という感覚なのかもしれないですね。熟成されたヴィンテージギターを鳴らせば、奏でられるものは変わってきますから。
屋久 樽も20年30年と使いこんでいくものですから、そうかもしれませんね。
吉井 その年月ってお金では買えない。ギターなら、毎日触られ、削られ、響いていくことで、唯一無二の楽器になっていく。そして人間もきっと一緒でしょうね。
屋久 ウイスキーは、樽の中で熟成されることで、まろやかになり、甘みも加わります。
吉井 人間も、熟成されていくとそうなりますよね。でも僕は、バンドをはじめて35年経つけど、まだまだ満足できないんです。いつになったら、ちゃんと音楽をつくれるようになるのだろうと。後悔してばかり(笑)。でも後悔があるから、作品をつくり続けていられるんです。
屋久 ウイスキーって、そういう後悔にも寄り添ってくれるお酒ですよね。
吉井 そうですね。これからも後悔しながら「この曲をウイスキーにしたい」と言ってもらえるような曲を生みだすために、ストイックにやっていかないと。今日、改めてそう思いました。
屋久 私も酒づくりで満足したことはなく、もっと美味しいものができると常に考えています。
吉井 僕は音楽で、屋久さんは酒で。ともに人を酔わせる仕事を、極めていきましょう。
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