ソロ20周年を迎え、長きにわたり日本の音楽界をリードしてきたロックミュージシャン・吉井和哉氏が、滋賀県のウイスキー蒸溜所「長濱蒸溜所」とタッグを組み、オリジナルウイスキーを完成させた。その味わいに秘められた思いを訊く。
自身の人生を投影したウイスキーシリーズ「YAZŪKA」
「僕にとってウイスキーは旅先で嗜むもの。その町の湿度・歴史が閉じこめられているような、特別なものなんです」
常に第一線を走り続けてきた音楽家、吉井和哉。ロックの熱狂のなかに身を置きながらも、旅先の静かな場所で、ひとりその地を感じることを愛してきた。
「スコットランドの港町の小さなパブで、隣に座ったお爺さんに話しかけられたことがあるんです。『ウイスキーはストレートじゃなきゃ』と。閉じこめられた町の風土を一番濃厚に味わえる飲み方だなと、以来僕もストレートで飲むようになりました」
スコッチの聖地・アイラ島でウイスキーに開眼した吉井氏は、以来「自身の人生を投影したウイスキーをつくりたい」と願うようになり、2021年、滋賀県の長濱蒸溜所とウイスキーシリーズ「YAZŪKA」を誕生させた。その味わいは愛好家の心も捉え、「幻の1本」と囁かれるまでに。
そして2023年、その第二弾となる「BURN」「TALI」の2種が完成。ともに吉井氏の楽曲名であり、その曲のイメージに合わせた味わいを表現した。
楽曲もまた、時間をかけて味わいを変化させるもの
「『BURN』は、THE YELLOW MONKEYで情熱的に活動していた1997年に行われた野外ツアー『紫の炎』をイメージした曲です。情熱的に燃えつつどこか色気のある、そんな炎。一方『TALI』はバンド活動休止中、自分と向き合うために始めたソロ活動の最初の1曲。情熱的な曲と内省的な曲、対照的な2曲ですね」
「炎」を感じさせる、スモーキーな味わいを追求したのが「BURN」、複雑な味わいで、吉井氏が自らの音楽を省みる日々を表現したのが「TALI」だ。
「ウイスキーは樽の中で熟成され味わいを変化させますが、楽曲も同じ。『BURN』『TALI』どちらも長い間演奏してきましたが、時代によって感じる曲の味わいは違いました。若い時の自分がつくった曲なのに、今の僕が、若造の吉井和哉に教えられることもあるんです」
長濱蒸溜所の近くに広がる琵琶湖には、吉井氏も時折船を出して、ひとり釣りを楽しむという。スコットランド・エディンバラと同様、近江の城下町の空気を閉じこめた長浜生まれのウイスキーを、やはり吉井氏はストレートで味わうのだろう。
「『BURN』は仲間と盛り上がりながら、『TALI』はひとり静かに。そんな風に、愉しみ方を変えてみてもいいかもしれませんね」
熱狂と静寂を併せ持つ音楽家の楽曲を、ウイスキーとして堪能する贅沢に酔いしれたい。
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