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2022.12.29

本田直之ら食のスペシャリストが厳選! 今伝えたい鹿児島焼酎・5蔵【蔵旅Ⅱ】

112もの焼酎蔵が切磋琢磨する鹿児島。蔵人たちは、伝統の製法だけに安住せず、工夫と試作と重ね、 個性を際立たせた焼酎づくりに励んでいる。その奥深き世界、知られざる美味に出会うべく、本田直之氏が蔵旅を提案。今をときめく飲食業界の雄たちとともに2日かけて5蔵を巡る旅に出た。

鹿児島焼酎 蔵旅

緑豊かな鹿児島の自然を感じながらつくり手と歓談しつつ、試飲を楽しむメンバー。

世界にも誇れるクラフト魂

昨年に続き2度目となる「蔵旅」。目的について発起人・本田直之氏は話す。

「芋焼酎は多種多様な味わいがあるにもかかわらず、匂いが苦手、重いなど固定観念でひとくくりにされている。世界にも誇れるクラフト魂で新しい美味しさを模索している蔵があることを知ってもらうには、飲食店経営者が直接つくり手の情熱に触れて、その感動を飲み手に伝える口コミが一番。いいものだからこそ、ブームではなく文化として広めていきたい」

旅のメンバーは、まず昨年も参加した岡田右京氏。若い世代に日本酒や焼酎の魅力を広める企画力で飲食店経営者からいち目置かれる存在だ。新メンバーは、独自のセンスと嗅覚で食にまつわるモノと人をつなげるフードキュレーターでもある大橋直誉(なおたか)氏、そして、独自性のある店づくりで人気繁盛店を経営、多店舗展開の才覚もある末富信氏と松永大輝氏だ。

前回同様、事前に気になる銘柄30本ほどを取り寄せ、5人でブラインド試飲。「今までのイメージを覆すような、新たな波を感じる味」をテーマに「つくり手に会いたい!」と興味を刺激した銘柄を選び、議論を重ねて5蔵に絞りこんだ。

1.大海酒造

最初に訪ねたのは、鹿屋市にある「大海酒造」。9つの蔵が集結し、地元のさつまいも農家とも協力し合って、畑のテロワールや地域性を打ちだした銘柄をバラエティ豊かに生みだしている。「地元に愛される味を」をモットーにしているが、杜氏の大牟禮良行(おおむれよしゆき)氏は「同じ味をつくり続けるのではなく時代に応じるチャレンジも重要」と語る、改革を恐れない勇気の持ち主だ。

その実力と功績で「現代の名工」にも選ばれている。20年前から冬には秋田の日本酒蔵で酒づくりを学び、焼酎づくりにフィードバックしているそうだ。攻めたつくりながらも、おおらかで、包みこんでくれるような温かさのある味わい。1軒目からつくり手の魅力に引きこまれる体験となった。

鹿児島焼酎 大海酒造

緑茶を加えた「茶房大海庵」や現代の名工・大牟禮良行杜氏が新たな酵母、オリジナルの種麹を使って仕込んだ「平々凡々」など限定銘柄も楽しみな大海酒造。

鹿児島焼酎 大海酒造

地元の農家との信頼関係を築くことで、よりよい薩摩芋を栽培してもらっている。

鹿児島焼酎 大海酒造

お茶の名産地でもある鹿児島。芋と一緒に茶葉も加えた焼酎を開発。

2.国分酒造

そして2軒目、霧島市にある「国分酒造」も、現代の名工を受賞したベテラン杜氏・安田宣久氏が活躍する蔵だった。安田氏は、米麹ではなく芋から麹をつくって仕込む業界初の100%芋焼酎を開発したり、大正時代の芋を復活させ、当時の手法で仕込んだり、はたまた若い世代に好まれる味を試行錯誤してオレンジやバナナ、ミント風味の焼酎までつくりだしたりとレンジの広い革新派。焼酎の奥深い歴史、魅力を知り尽くしてもなお前に進む姿勢に驚かされた。

鹿児島焼酎 国分酒造

米麹のもととなる米からつくったり、芋から麹をつくったり、原料や麹の種類だけでなく、圧力も微妙に変えながら革新的な味を生みだす国分酒造。

鹿児島焼酎 国分酒造

蒸留機も改造を重ねて進化。初期の蒸留機の構造はほぼ残ってないとか。

鹿児島焼酎 国分酒造

芋麹を使いながら減圧で蒸留したクセのない味と、東京の女子大生に描いてもらったラベルの可愛さで入手困難になっている「フラミンゴオレンジ」。

鹿児島焼酎 国分酒造 安田

国分酒造の「フラミンゴやペンギンのラベルの焼酎を開発したのが安田さんだったとは!」と、旅のメンバーは驚き、淀みなく出てくるマニアックな開発秘話にも魅了された。

3.大石酒造

3軒目、総勢10名ほどで営む小さな蔵「大石酒造」(阿久根市)でもベテランに遭遇。エンジニアだった大石啓元(ひろもと)氏が 40歳で家業を継ぎ5代目に。研究熱心で物づくりが好きだったこともあり自らが杜氏となって新しい味わいを次々に開発していった。特に室町時代から明治時代まで用いられていた木樽を使った“古式かぶと釡蒸留”の「かぶと鶴見」は感動的。2年かけて独自に改良した釡でじっくり時間をかけて蒸留したその味わいは、芋の風味を残しつつも口当たりが極めて繊細。「名品に必ず人の情熱あり」を実感した。

鹿児島焼酎 大石酒造

昔ながらの木造の蔵で少量生産ながらも多様な味を丁寧につくっている大石酒造。試飲の段階からひと際ピュアな味わいに一同を感動させたのが「かぶと鶴見」。

鹿児島焼酎 大石酒造

明治32年の創業の頃からの風情ある蔵をメンテナンスしながら使っている。2次発酵の櫂(かい)入れ作業を体験する岡田氏。

鹿児島焼酎 大石酒造

5代目の娘・晶子氏とご主人の恭介氏のように若いつくり手も。

4.田苑酒造

次に訪れたのは薩摩川内市にある「田苑酒造」。長期樽貯蔵に加え、クラシック音楽仕込みで口当たりまろやか、かつ品格のある焼酎を生みだしている。ボトルやラベルのデザインも美しく、業界に先駆けて世界に羽ばたくことを目指してきた意識の高さに感服。

鹿児島焼酎 田苑酒造

ボトルの形やラベルだけ見ていると焼酎ではなく、ウィスキーやクラフトジンのよう。バックバーに並べたくなる銘柄が多数揃う田苑酒造。

鹿児島焼酎 田苑酒造

田苑酒造では音楽を振動に変換して伝えるトランスデューサという特殊なスピーカーを、タンクに直接取りつけクラシック音楽を聴かせる「音楽仕込み」で、新たな味わい、価値を生みだす。

鹿児島焼酎 田苑酒造

戦後、風味を豊かにするために樽貯蔵本格焼酎の開発に着手。苦節26年、日本初の樽貯蔵麦焼酎を誕生させた。その後、芋焼酎でも成功を収め数々の賞を受賞。

5.薩摩金山蔵

5軒目、いちき串木野市にある「薩摩金山蔵」では、トロッコに乗って地下坑洞へ。かつて薩摩藩の栄華を支えた串木野金山跡で焼酎の仕込み、貯蔵、熟成が行われているのだ。しかも100年ぶりに復活させた黄金麹で仕込む徹底ぶり。鹿児島の歴史をも体感できる旅のフィナーレを飾るにふさわしい蔵だった。

鹿児島焼酎 薩摩金山蔵

幻と言われていた黄金麹を復活させた唯一無二の焼酎づくりだけでなく、鹿児島の金山の歴史も継承している薩摩金山蔵。

鹿児島焼酎 薩摩金山蔵

トロッコで地下坑洞へ。「タイムワープのアトラクションのよう」とテンションアップ。

鹿児島焼酎 薩摩金山蔵

年間19度が自然に保たれる坑洞で甕(かめ)熟成する唯一無二のつくり。

旅の最後に感想を求めると「鹿児島は土地も人もパワフル。老いも若きも物づくりと人生を楽しんでいてプラスのオーラに溢れていた」(岡田)、「攻めたつくりで、自分が知っている焼酎よりも遥かに先に進んでいた。若い世代にも絶対に受け入れられる」(末富)、「ソーダ割りメインで提案してきたけれど、例えば『フラミンゴオレンジ』ならホットコーヒー割りもいいなと。焼酎の個性に合わせて細分化した飲み方の提案をしたい」(松永)、「いいものはある。あとはつなぐだけ!」(大橋)、など蔵旅効果は確実に形になりそうだ。

「焼酎は決して昔の酒ではない。進化し続けているし、飲み手が成長することでつくり手を刺激すれば、もっと楽しい相乗効果が生まれるだろう」

本田氏が締めくくった。

鹿児島焼酎 本田

レバレッジコンサルティング 代表取締役 本田直之
ハワイと東京に拠点を構え、日米のベンチャー企業への投資育成事業を行う傍ら、世界中を旅して仕事と遊びの垣根のないライススタイルを送り、屋台からB級、3つ星レストランまで美食を極めている。

鹿児島焼酎 岡田

十番右京グループ オーナー 岡田右京
20〜30代女性の日本酒ブームに火をつけた「十番右京」をはじめ、J-POP 懐メロダイニングバー「歌京」、「十番右京ナチュールスタンド」など話題店を経営。B級から星つきまでアンテナを張り、日々勘を磨いている。

鹿児島焼酎 松永

(惚)オ向イ上ル/オ山ノ活惚レ オーナー 松永大輝
鮮魚卸・海鮮居酒屋「魚真」で9年、目利き力と腕を磨き、2018年高級魚介を安価で楽しめる「活惚レ」を開業。2年弱で2号店を開く。ナチュールワイン、クラフトジンなど酒類の品揃えにもこだわりを持つ。

鹿児島焼酎 大橋

つかんと オーナー 大橋直誉
レストランサービスからキャリアをスタートし、フランスで星つきレストランのソムリエまで務め、帰国後、「カンテサンス」を経て独立。食材・料理人・クリエーターなどをつなげるべく世界を股にかけて活躍中。

鹿児島焼酎 末富

膳処末富 オーナー 末富信
人気名店「さかなや 富ちゃん」の2代目として経験を積むが、肉好きが高じて2015年焼肉割烹「肉匠 堀越」をオープン。その後も薪和食「鈴田式」、薪焼鳥「新神戸」など、薪料理で新境地を切り拓いている。

【関連記事】
■本田直之ら食のスペシャリストと巡る鹿児島。再ブーム目前の薩摩焼酎【前編】
■新世代の焼酎を生む注目の蔵元5軒【食のスペシャリストと鹿児島を巡る旅(後編)】

TEXT=藤田実子

PHOTOGRAPH=長尾真志

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