”品質はただひとつ。最高級だけ”――イエローのラベルでおなじみのシャンパーニュ、ヴーヴ・クリコ。2022年夏、メゾンの礎を築いたマダム・クリコの理念をカタチにした特別なイベントが開催された。
グラン・クリュの葡萄にはグラン・クリュの野菜
1772年に設立され、今年250周年を迎えたシャンパーニュメゾン、ヴーヴ・クリコ。その名前はマダム・クリコと呼ばれたひとりの女性に由来する。
27歳で未亡人となったマダム・クリコは、義父が創業したメゾンを引き継ぐことになる。当時はまだ女性の経済的自立が困難であった時代。固定観念にとらわれない彼女は、シャンパーニュの醸造、販売においていくつもの革新をもたらし、メゾンを大きく発展させていく。その後、彼女の業績を称え、シャンパーニュ地方の「ラ・グランダム(偉大なる女性)」と呼ばれるようになった。
そんなメゾンの母ともいえるマダム・クリコは、生前、シャトーの前に畑を所有し、野菜などを育てていた。現在もその畑はシャンパーニュ地方のヴェルジー村にて継承されている。そこでは料理とシャンパーニュのマリアージュの研究をするためのガーデン(菜園)が設けられているのだ。
そして、この目の前のガーデンで採れた野菜やハーブを中心に、肉や魚はあくまで脇役とする料理――それがヴーヴ・クリコの提唱するガーデンガストロノミーだ。
その最先端ガストロノミーを体験するイベントが今夏、北海道で行われた。場所は日本唯一のポロ競技場を併設する、東京ドーム9個分の広大な敷地を持つ牧場「北海道ホームファーム」。参加したゲストはポロのデモンストレーションを楽しんだ後、併設する菜園で野菜を自ら収穫。そして、その野菜を使ったコース料理をクラブハウスで堪能した。
採れたての野菜を調理したのは、国内外からグルマンが訪れる和歌山「ヴィラ アイーダ」の小林寛司氏。自身もレストランからほど近い場所に畑を所有し、収穫した野菜を調理して提供する、まさに“ガーデンガストロノミー”を体現するシェフだ。
ヴーヴ・クリコのプレステージ・キュヴェ、ラ・グランダムにインスパイアされた小林シェフの料理は「北海道風味」と名付けられ、いずれも瑞々しく生命力に溢れた皿ばかり。それは繊細でありながら力強いシャンパーニュと見事なハーモニーを奏でていた。
食事の終盤、地平線の向こうに夕日が沈んでいくのが目に入る。クリコイエローに染まる夕焼けを見ていて思ったのは、自然の偉大さ。大地の恵みの結晶ともいえる野菜の料理とシャンパーニュを口にして、その豊かさにただただ頭が下がる思いだった。