PERSON
2025.01.03
オカダ・カズチカが語る、新日本プロレスでの“新弟子”の仕事
プロレスラーには限界から先の姿を見せていく使命がある――。新日本プロレスのスター選手として活躍後、アメリカのプロレス団体「AEW」でも躍進を続ける“レインメーカー”オカダ・カズチカが、その人生の極意を語る。『「リング」に立つための基本作法』より一部を抜粋してお届けします。
新日本プロレスでの“新弟子”の仕事
19歳のとき、新弟子扱いで新日本プロレスに入門した。15歳で闘龍門に入門して、メキシコでデビューしていたけれど、“新弟子扱い”が入門の条件だったのだ。そのことにまったく抵抗はなかった。一番下っ端の居心地のよさを闘龍門で体験していたからだ。
メキシコから帰国してすぐ、僕は東京・世田谷にある新日本の道場の寮に入った。ここは通称“野毛道場”といわれている。新日本が1972年に設立される前は、あのアントニオ猪木さんの自宅だった。会社設立時に道場と寮になり、改装されたのが今の野毛道場だ。
僕の入門時の寮長は小林邦昭さん。1980年代に初代タイガーマスクとライバル関係で、相手の頭部を腕でロックして身体をそらせて後方に投げてホールドするフィッシャーマンズ・スープレックスを得意技に名勝負を重ねた方だ。
新弟子の道場での一日は、次のようなスケジュールだ。
午前8時に起床し、掃除とちゃんこの用意。午前10時から午後1時くらいまでトレーニングをし、その後はちゃんこ番、先輩のお世話、洗濯、電話番。午後11時に入浴し、午前0時に就寝。
最初は甘く見ていた。闘龍門ではすでに4年のキャリアがあったからだ。しかし、さすがに新日本はプロレス界のメジャー団体。練習内容は濃く、選手のレベルが高く、ここでもトレーニングについていくだけで精一杯だった。
先輩たちはみんな身体ができ上がっていて大きかった。僕は身長こそ高かったけれど、身体の厚み、隆起する筋肉のつき方ではかなわなかった。
僕を含めて4人の新弟子で、掃除、洗濯、電話番、ちゃんこ番を行う。デビュー前の人間は外出が制限されていて、リビングで先輩たちのお世話をする。先輩がお茶を飲み干したら、すぐに新しいお茶を入れる。
寮長の小林さんは優しい人で、理不尽なことはなかったけれど、怖い先輩はいた。たとえばちゃんこの肉がしっかり切れていないと厳しく叱られた。
ちゃんこ番は、新弟子の持ち回りだ。4日に一度、当番がまわってくる。メンバーは、YOSHI-HASHIさん、内藤(哲也)さん、僕、そしてもう一人は今はもうやめられた方。
塩ちゃんこ、味噌ちゃんこ、キムチちゃんこ……。
メニューと量は小林さんが指示。肉屋さん、八百屋さんが道場に持ってきてくれた材料で料理する。
ちゃんこはシンプルな鍋料理。大きな鍋に出汁をとり、ちゃんこ番がその日のメニューの味付けをして肉と野菜をぶち込めばできる。
それでも不思議なもので、おいしい日とおいしくない日がある。まずいと、食卓は盛り上がらない。みんな「今日はまずいな」と、塩を足したり、醤油を足したり、自分の好きな調味料で味付けする。
「オレが一番おいしいちゃんこをつくるぞ!」
僕はいつもそう思っていた。
市販のスープにひと工夫を加えると、格段においしくなる。
野毛道場にはライガーさんの部屋がある。ライガーさんの自宅は福岡なので、道場を東京の住まいにしていた。
ライガーさんは昭和プロレス時代から受け継がれてきた新日本のちゃんこのつくり方を教えてくれた。そのメソッドのとおりにつくると、確かにおいしい。そこに少しずつ自分流の工夫を加えてバージョンアップしていった。
日常にもエンタテインメント性を意識する
ちゃんこをうまくつくれても、強いレスラーになれるわけではない。しかし、プロレスは格闘技であるだけでなく、エンタテインメント性も大切だ。強さと同じくらい華も必要だと思う。質の高いエンタテインメントは注目される。いい試合をすればプロレス会場にお客さんは集まる。
同じように、ちゃんこがおいしければ、自宅暮らしで通ってきている先輩たちも道場で食事をしていく。OBの方も食事をされるので、一緒に食卓を囲める。エンタテインメントだ。
ごく日常的なルーティンにも楽しみの種子を見つけて、エンタテインメント性を意識する。たとえやらされることであっても、創意工夫次第で楽しくなってくる。
僕が寮にいるころは山本小鉄さんがご存命で、ちゃんこの席でプロレスについていろいろ教えてくださった。
小鉄さんは力道山が設立した日本プロレスに入門し、アメリカでは星野勘太郎さんとのタッグチーム、ヤマハ・ブラザーズで活躍した。ヤマハ・ブラザーズが転戦したのはテキサスやテネシーなど、人種差別が激しく反日感情の強いアメリカ南部。よほど肝が据わっていたのだろう。新日本プロレスには設立時から参加し、レフェリーや道場長も務めたレジェンドだ。
その小鉄さんがいつも僕のちゃんこに点数をつけてくれた。
「小鉄さん、今日のちゃんこは何点ですか?」
「うん! 80点だな」
「ありがとうございます!」
そんな会話をしていた。
いつもいい点をくれたことが懐かしい。

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