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2025.01.01

オカダ・カズチカが「500回で十分」なスクワットを1000回やる理由

プロレスラーには限界から先の姿を見せていく使命がある――。新日本プロレスのスター選手として活躍後、アメリカのプロレス団体「AEW」でも躍進を続ける“レインメーカー”オカダ・カズチカが、その人生の極意を語る。『「リング」に立つための基本作法』より一部を抜粋してお届けします。

筋力トレーニングとしてのスクワットは500回で十分

プロレスラーの身体づくりにおいてもっとも大切なトレーニングの一つにスクワットがある。

スタンダードなスクワットは、次のプロセスで行う。

(1) リラックスして直立。あしは肩幅くらいに開く。

(2) かかとを上げ、息を吸いながら膝を曲げ、だいたいが床と平行になるまで腰を落とす。このとき、背中はできるだけ垂直になるように意識する。

(3) (2)の姿勢で一度動きを止め、息を吐きながら腰を上げ、(1)の姿勢に戻る。

(4) (1)~(3)をくり返す。

さらに、プロレスラーは両手を上げ下げしながらこの運動を行う。プロレスファン以外にも有名なヒンズースクワットだ。

ライガーさん(獣神サンダー・ライガー)たち、昭和から闘っている先輩レスラーたちはヒンズースクワットを一日に3000回も行っていたと聞く。気が遠くなるほどの回数だ。

だが平成以降は一日に1000回くらいになった。過剰なスクワットでひざが悪くなるという指摘があったからだ。

筋力トレーニングとしてのスクワットは、実は1000回でも多い。その半分の500回で、大腿筋もだい殿でんきんも十分に鍛えられる。コーチも、500回でも1000回でも鍛えられ方は変わらないとわかっている。

では、なぜ1000回もスクワットをやるのだろうか──。

(撮影:玉川竜)

そこには理由がある。レスラーはスクワットによって、フィジカルだけではなく、マインドが鍛えられるのだと僕は思っている。

スクワットを1000回行うのはきつい。大腿筋がパンパンに張る。身体ができていない練習生時代は歩けなくなるほどだ。ひたすら汗が流れ、床に水たまりができる。しかしそれによって、心も確かに強くなる。

やがてレスラーとしてキャリアを重ねると、1000回行う筋力が備わる。筋力、体力的には何度でもできるようになる。

すると今度は、飽きとの闘いになる。同じ場所で同じ動作を1000回くり返すのは退屈だ。動きは単調だし、景色も変わらない。それでも、頑張り続ける。

こうして、スクワットによって心が強くなっていく。

限界を超えるために

多くの場合、人は自分で自分の限界を決める

「これがオレの限界だ」

「もうこれ以上はできない」

それまで体験したことのないレベルの苦しみを感じると、もうこれ以上は無理だと思ってしまう。

ところが人間は、「ここが限界」と思った時点から、実はまだかなり頑張れる。自分の意思ではなく、コーチにやらされる1000回のスクワットがそれを教えてくれる。

たとえば試合で関節技を決められ、ロープエスケープするにもロープが遠い……。とんでもなく痛い。そして意識が遠のいていく。

「ギブアップか……」

あきらめが頭をかすめる。

マットをパンパンパンと叩けばギブアップ負けになり、同時に激痛から解放される。すべてが楽になる。ギブアップしたからといって、命を取られるわけではない。

「でも、待てよ……」

自分に問いかける。

もう限界と思ったところから、オレ、実際はまだまだ頑張れるんだよな

スクワット1000回の体験がよみがえる。

自分がまだまだできることは、頭よりも身体が知っている。

プロレスラーには限界から先の姿を見せていく使命があると思う。スクワットの体験を思い出すと、そこを耐えることができるのだ。

技をかけられている側はもちろんつらいが、技をかけている側もつらい。負荷がかかり、疲労してくる。そこにすきが生まれ、抜け出すことができる。そうして耐えてしのいで、逆転勝ちした試合は数えきれない。

どんな仕事にいていても、苦しい局面はあるだろう。

「もう無理!」

そう感じるのがふつうだ。

しかし、無理だと思ってからさらに高いレベルへ行った体験を持つことによって思い直す。

「ここが限界と思っても、実際にはそこからまだまだやれるんだよな……」

自分を納得させて、未体験の領域にトライする。

その結果、成長があり、まだ見ぬ自分と出会うことができるのだ。

限界を自分で決めてはいけない

さまざまな世界にいる人生の成功者たちは、ほぼ間違いなく、このシンプルな法則を知っている。

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:「リング」に立つための基本作法
オカダ・カズチカ

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