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2026.02.26
意識とはなにか? 私たちの意識が生まれたのはなぜか? 睡眠研究の第一人者が科学的に解析
「意識」は行動を司るとされているが、実際には選択の多くを“無意識”が動かしているという。では、「自分で選んだ」という感覚は本物なのだろうか? 睡眠研究の第一人者である筑波大学の櫻井武教授が、意識の役割と“自分”の正体に迫ったサイエンス新書、『意識の正体』。本書より、一部を抜粋してお届けします。
意識はなぜ存在するのか
「意識とは何か?」――この問いに真正面から向き合おうとするたびに、私たちは言葉の壁に突き当たる。
意識とは、多くの哲学者や神経科学者が語るように、「自分が何かを体験しているという主観的な感覚(subjective experience)」ともいえる。
目の前の景色が見える、音楽が響く、痛みや喜びを感じる、自分が「ここにいる」と気づく―― これらの実在感はクオリア(Qualia)と呼ばれる。クオリアは単なる情報処理の結果、何かを決定することではなく、「感じられること」そのものだ。コンピュータが情報を処理しても、その内部に色や音の感覚は生じない。
それに対し、私たちは赤の鮮やかさや痛みの鋭さを“感じる”。この「感じ」が意識の核心である。
つかめそうで、つかめないもの
一方、神経科学では、意識を「外界や内界の情報を統合し、レポート可能な状態」として扱うことが多い。つまり、目や耳などの感覚器からの情報を脳が統合し、「私は〇〇を見た/感じた」と報告できる状態だ。
いずれにしても意識は、「自己」という感覚、そして「自己と世界との関係性の理解」と密接に結びついている。
しかし、この「意識」という現象は、どこまでも得体が知れないのだ。
まるで、霧の奥でかたちを変え続ける影を追いかけているようである。近づくたびにその輪郭は揺らぎ、また遠ざかっていく。
哲学は、クオリアや自己認識を手がかりにその輪郭を描こうとしてきた。神経科学は、意識に関わる神経活動や脳内ネットワークを少しずつ明らかにしている。それでもこの問いには、いまだ決着がつかない。

意識が消える瞬間について考える
意識を考えるということは、同時に「自己とは何か」を考えることでもある。
自己という感覚は、意識の最も近くにありながら、その実態はつかみにくい。
「私」という存在がどこまで広がり、どこで終わるのか――それを理解するためにも、意識の正体を探る必要がある。
私は、「意識」というテーマに向き合うにあたり、あえて「無意識」から迫ることを選んだ。
眠り、夢、仮死状態、冬眠、そして死――意識が途切れる瞬間を覗き込むことで、かえって意識の輪郭が浮かび上がるのではないかと考えたからである。

意識は宇宙と無関係ではない
さらに、この問いは自己の問題にとどまらない。
意識という現象は、私たちの脳内だけで完結する話ではなく、宇宙そのものの在り方と関わっている可能性すらあるからだ。
「私の意識と宇宙に何の関係があるのか?」と思う人もいるだろう。
しかし意識は、自己と世界を結びつける認知の窓であり、私たち自身も宇宙の一部である。つまり、私たちの存在そのものが、この宇宙の成り立ちと無関係ではありえないのだ。
私たちの意識が生まれたのはなぜか?
宇宙の膨張を加速させるダークエネルギーや、素粒子に質量を与えるヒッグス場(ヒッグス粒子が存在する背景の場)の値、強い力と弱い力の絶妙な釣り合い、宇宙初期の揺らぎの加減――もしこれらの物理定数がほんのわずかでも異なっていれば、生命どころか星も銀河も生まれなかった。
私たちの宇宙は奇跡的な条件を備え、物質を生み、太陽系を生み、地球を生み、化学反応を育み、生命と知性、そしてついには「意識」という火を宿した存在を生み出した。

この「なぜ条件がこれほど都合よくそろったのか」という問いに対して、ひとつの考え方が人間原理(anthropic principle)である。人間原理は、「私たちがここに存在できるのは、存在可能な条件の宇宙にしか生命は生まれえないからだ」と説明する立場だ。
この説明をさらに推し進めた仮説が、マルチバース(多元宇宙)である。無数の宇宙が存在し、それぞれ物理定数が異なるなら、私たちは「意識が生まれる条件が整った宇宙」にのみ存在することになる。他のほとんどの、そして無数の別の宇宙には観測者はいないことになる。
無限の宇宙の中で、偶然にも意識をもった私たちは、自分が生きていると感じ、世界の存在を問い、さらにはその宇宙を測ろうとしている。このこと自体、きわめて特異な現象だ。ひょっとすると、「世界を問う意識があるからこそ、この宇宙は存在している」という逆説も成り立つのかもしれないのだ。
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