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2024.07.28
性被害者が加害者になるケースも…小児性犯罪被害者の深すぎる心の傷
子どもと親しくなり、信頼関係を築いた上で、その信頼を巧みに利用して性的な接触をする「グルーミング」。見ず知らずの相手を狙う痴漢や盗撮などとは大きく異なります。性犯罪者治療の専門家、斉藤章佳さんがこの性犯罪の特徴やそれを取り巻く問題について解説した『子どもへの性加害』より、一部を抜粋してご紹介します。 ※性被害・性加害の具体的な描写があります
加害行為が発覚しないように「記憶に残らない」幼児を狙う
過去に私が担当した3歳の女児に加害行為をした元保育士の男性は、逮捕された後、警察署での面会で「3歳だと記憶に残らないじゃないですか。それってWin-Winですよね」と口にしました。
幼い頃の過酷な体験は、それを抱えたままでは生きていけないという理由で記憶が封印されることがあります。しかし、なんらかのきっかけで記憶が蘇る「フラッシュバック」が起こることもあります。当然被害者は、その後とてつもない苦しみを味わうことになります。また、被害を受けた年齢が低いからといって、記憶していないわけではありません。体はトラウマを記憶します。
小児性犯罪者も、自分がしている加害が犯罪行為であることはわきまえています。彼らがもっとも恐れているのは、加害行為が発覚することです。しかし、自分の欲求を充足し、加害行為を続けるためにも自らの考えを正当化し、認知の歪みを強化していくのです。
幼少期の家庭内での虐待、学校でのいじめ、性被害などが直接的、間接的に影響を及ぼし、のちに子どもへの性的嗜好や性虐待につながる事例を加害者臨床の現場ではしばしば見かけます。
小学生男児が同じ団地に住む「やさしいお兄さん」からグルーミングされ、その後4年間にもわたって性被害を受け続けた事例がありますが、実はこの被害にあった男児こそ、のちに私が某刑務所で面会した受刑者でした。
この被害男児はのちに加害者となり、刑務所に収監されていたのです。
被害者が加害者になる負の連鎖
ここでは彼を仮にFとしましょう。Fは女児に対する強制わいせつ罪(当時)で実刑判決を受け、刑務所に収監されていました。彼が実刑判決を受けるのは、これが3度目です。いずれも子どもへの強制わいせつや強制性交等罪(当時)でした。
私が生業としている精神保健福祉士や社会福祉士の業務は多岐にわたります。そのうちのひとつに、刑事施設や少年院などの矯正施設に収容されている人の出所・釈放後の就業先や住まいなどの環境を調べ、確保し、そのうえで彼らが再犯をしないようにするための「生活環境の調整」という出口支援業務があります。私はこの業務のために、Fと刑務所内で面会しました。このような特別な面会の依頼は、全国の地方更生保護委員会から打診があります。
Fとの面会は1時間半ほどでしたが、その間、彼は自身が幼い頃にグルーミングからの性被害にあったことを私に打ち明けました。一般に性犯罪の加害者が逮捕され、裁判で実刑となった場合、刑務所内では通称「R3プログラム」と呼ばれる性犯罪再犯防止指導が行われているのですが、彼もまたこのプログラムを受講していました。
このカリキュラムのなかには「自分史」というものもあります。幼いときから現在までの自分の歴史を振り返り、グループ内で発表するのが大枠です。彼も自分の生い立ちを見つめ直すうちに、自分自身も幼い頃にグルーミングされ、最後には口腔性交や肛門性交にまで至る性被害にあったという事実にそこで初めて気づいたのです。
自分が性加害者になり、刑務所に入って初めて過去の性被害に気づくとはなんとも因果な話です。しかし裏を返せば、FはR3プログラムを受講するまで、性被害にあったことを記憶の奥底に抑圧し、自覚しないまま過ごしていたのです。そういう意味では、いわばグルーミングが及ぼす洗脳状態が続いていたともいえます。
被害者のこころに深い傷を負わせる性加害や性虐待は「魂の殺人」ともいわれますが、Fも幼い頃の性被害により自尊心が根こそぎ削られ、「自分は価値がない人間なんだ」と刷り込まれていたことがうかがえます。しかし人間は、自分がずっと支配される側でいることは望みません。
もしも何かのきっかけで自分が支配できる存在、絶対に自分を脅かさない存在が現れたらどうでしょう。自分の支配欲を満たしたいと考えるのが、ある種、自然なこころの動きではないでしょうか。Fの場合、自分の支配欲の矛先は、「絶対に自分を脅かさない」という保証がある子どもたちに向いていたのです。
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