WATCH

2025.12.08

オーデマ ピゲ、パテック フィリップ、ウブロ…どん底から再起した経営者を支えた腕時計

ただ時を刻むだけではない。高級時計は、人生を新たなステージへと導いてくれる。時計に魅せられた男たちが語る、その奥深き世界。今回は、キックスリー代表取締役の田所和弘氏に話を聞いた。【特集 時計をつける悦び】

田所和弘氏
田所和弘/Kazuhiiro Tadokoro
キックスリー代表取締役。1970年埼玉県生まれ。会社員生活を経て、27歳で独立するも37歳で経営していた2社が倒産。その後、“地獄の日々”を経て見事復活。現在はスポーツアパレル「キックスリー」など、国内外で12社を経営している。

資産価値を求めない

20代後半で経営者となり、機械式時計の世界にのめりこむ。彼を魅了したのはA.ランゲ&ゾーネの時計たち。名作のほまれ高い「ランゲ1」や「ダトグラフ」、さらにはトゥールビヨンウォッチも購入した。だが、37歳の時、田所和弘氏の世界は一気に暗転する。

「当時2社経営していて上場も見えていたんですが、投資の失敗で2社とも倒産。当然、持っていた高級時計も手放しました。そこからは金銭的にはどん底の時期でした」

現在、55歳の田所氏はファッションや食品、医療やエネルギー関連など国内外に12社を展開している。だが、10年ほど前までは「地獄のような日々」を送っていた。2007年に会社が倒産すると、翌年には再起をかけて新しい会社を立ち上げたが、事業は思うように成長しなかった。支援者の協力もあって、新しいビジネスが軌道に乗り始めたのは倒産から7年後だった。

「その頃、昔持っていた時計を買い戻そうと思っていて、大好きだったロレックスの『デイトナ』を買ったんです。ホワイトゴールドのモデルで400万円くらい。でも買った瞬間に『おれ、何やっているんだろう』と思ったんです。時計なんて気にしていられる立場じゃない。まだまだこんなことをしている場合じゃないって、自分への怒りが湧いてきて、すぐに『デイトナ』を手放しました」

久しぶりに購入した時計はトゥールビヨン

そこから5年間は、アップルウォッチを愛用。事業は順調かつ急速に成長した。そして2022年、田所氏は15年ぶりに高級時計の世界へと舞い戻る。

「久しぶりに買ったのがウブロ『ビッグ・バン トゥールビヨン』。高級時計については知り尽くしたつもりでしたが、スケルトンのなかのトゥールビヨンが本当に美しい。やっぱり機械式時計は楽しいと思わせてくれました」

時計熱は再び燃え上がった。だが、田所氏は時計を購入する際のルールを決めていた。

「資産価値を求めて時計は買わない。今持っている時計は手放さない。そう考えていれば、本当に欲しい時計だけを買う」

そんな田所氏が「もし1本だけ残せと言われたらこの時計」と惚れこんでいるのが、「CODE
11.59 バイ オーデマ ピゲ クロノグラフ」だ。

「2019年にオーデマ ピゲの新作として『CODE11.59』が出た時は、そのデザインに賛否両論がありました。でも僕は経営者として、そのコンセプトに共感した。11時59分、今日が終わる最後の1分間にやり残したことを考え、明日へと思いを馳せる。1日1日を覚悟して生きるという私の思いと重なり合うように感じたんです」

機械式時計は、毎日のように時間を合わせるなど、スマートウォッチにはない手間がかかる。

「でもその手間が愛おしい(笑)。ちょっとヘソを曲げると、時間が狂ったりするでしょう。その面倒くささが魅力なんです」

そしてスマートウォッチにはない世界も持っている。

「経済界で成功されている方は、腕時計と靴に気を使っている。そこに心の余裕もあらわれる気がするんです。たまたまかもしれませんが、時計熱が再燃して以降、ビジネスでのいい出会いが増えました。仕事が順調に成長できているのも時計たちのおかげのような気がしています」

現在、パテック フィリップとオーデマ ピゲに新しい時計をオーダーしているという。

「自分のなかで時計のロードマップを描いていて、この時期にこんな時計が欲しいということを考えているんです。これからもそれをひとつずつ手に入れていければなと思っています」

田所和弘氏の腕時計コレクション
右:「やっぱり他とは違う気品があります」。パテック フィリップ「グランドコンプリケーション 永久カレンダー クロノグラフ」。中:「バゲットダイヤ入りのモデルは希少性が高い」。オーデマ ピゲ「CODE11.59 バイ オーデマ ピゲ クロノグラフ」。 左:田所氏の時計熱が再燃するきっかけとなったウブロ「ビッグ・バン トゥールビヨン オートマティック チタニウム セラミック」

【特集 時計をつける悦び】

この記事はGOETHE 2026年1月号「特集:つける悦びを知るLUXURY WATCH」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら

TEXT=川上康介

PHOTOGRAPH=舛田豊明

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