業績好調なスイス時計業界だが、材料費の高騰や為替の関係もあって、販売価格は上昇を続けている。そんななか、2023年の「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ」にて、レイモンド・ウェイル「ミレジム」がチャレンジウォッチ部門を獲得した。手の届きやすい価格帯でありながら、美しいデザインをもつネオ・ヴィンテージウォッチ。その背景にある情熱を、CEOのエリー・ベルンハイム氏に聞いた。
注目度急上昇の時計ブランド、レイモンド・ウェイルCEOを直撃
時計業界で最も権威あるアワードである「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE、以下GPHG)」の授賞式が、2023年11月に行われた。
このアワードは、時計師やジャーナリストなど“時計のプロフェッショナル”が、エントリーされた時計に対して投票を行うというもので、メジャーブランドだけでなく、きらりと輝く実力派の時計が選ばれることも少なくない。
2023年のGPHGにてチャレンジウォッチ部門(CHF2,000以下)に選ばれたのは、1976年に創業したジュネーブの独立ブランド、レイモンド・ウェイルのドレスウォッチ「ミレジム」だった。
「レイモンド・ウェイルは、時計職人であった私の祖父が立ち上げたブランド。家族経営を守っており、私は父から2014年に経営を引き継いだ三代目です。
我々の強みは、手の届きやすい価格です。1,000ドルから5,000ドルという価格帯を重視し、現在は世界80か国に進出。アメリカとイギリスが大きな市場になっています」
そう語るのは、現在CEOを務めるエリー・ベルンハイム氏だ。
「時計愛好家を魅了する時計をつくるという目標は、『ミレジム』で達成したと言えるでしょう。過去のレイモンド・ウェイルのコレクションは、音楽とのコラボレーションが多かったのですが、『ミレジム』にはシンプルでピュアなデザインがあります」
ミレジム(Millésime)とは、フランス語でヴィンテージの意味だ。
「この『ミレジム』の企画がスタートしたのは、約3年前です。ブランドをもっと成長させるための時計を求めていた時で、美しくて、洗練されていて、エレガントで、ちょっとレトロなムードがある、それでいて手の届きやすい価格の時計はどうだろうかと考えました。条件は多いようにも思えますが、要するに伝統的なスイス時計をレイモンド・ウェイルとしてつくりたいということ。スタッフやデザイナーとも考えがまとまり、第一案のデザインですぐに骨子が決まりました」
1930年代に流行したセクターダイヤル(時分秒の目盛りをそれぞれ異なるトラックに配置するデザインのこと)を用い、ケースは39.5㎜という現代の時計としてはやや小ぶりなサイズにまとめた。
さらに風防はボックス型になっており、ケースサイドにはサテン仕上げを取り入れる。ラグもすらりと長くデザインしており、全体のプロポーションも美しい。これがGPHGで賞を獲得したのは、極めて当然なことだろう。
「受賞が決まった時は、とても興奮しました。会社やパートナー、そしてすべてサプライヤーへの感謝の気持ちでいっぱいでした。それと同時に、やってきたことに間違いがなかったという確信も得られた。
私は2014年からCEOに就任しましたが、いつだって一貫性を強く大事にしています。もちろん時には悩むことも迷うこともありますが、明確なビジョンを打ちだし続けている。そのひとつが、手の届きやすい価格で洗練された時計をつくることであり、『ミレジム』がその証明となりました」
1日20時間働く父の姿を見て育った
この明確なビジョンをもつという姿勢は、先達から受けた影響だという。
「祖父は、自分がやっていることに確信が持てない場合は、その先に成功はないというルールを持っていました。新しい製品を開発する際には必ずプロトタイプをつくりますが、どうしても気に入らないことがあります。何が駄目だというわけではなくても、直感的に違うと感じたなら前に進んではいけません。これは祖父からの最も大切な教えです。
また、父からも影響を受けました。父は本当にワーカーホリックで、1日20時間でも働いていましたし、土日も休まなかった。そして残念なことに、私も父と同じく、平日も週末もずっと仕事をしてしまうんです(笑)。私はいつも仕事と自分がつながっている。それがいいことなのか悪いことなのかはわかりませんが、仕事は私の情熱そのものなのです」
スイス時計業界においては、数百年という歴史を持つ時計ブランドも多く、王侯貴族に愛されてきたという伝説や、スポーツ計時など大きなイベントを通じて名声をつくり上げたブランドも多い。
そういったライバルたちが多いなかで、レイモンド・ウェイルは「手が届きやすい価格帯で、美しい時計をつくりたい」という情熱を持ち続けている。
クラシカルで美しいネオ・ヴィンテージウォッチ「ミレジム」は、腕元にきれいに収まる静かな時計。しかしそこには時計人の熱い想いがこもっているのだ。
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