インターネットやSNSの普及からあらゆる時代の時計が簡単に入手できるようになった。そうはいったところで、パーツの整合性や真贋の問題が問われるヴィンテージウォッチの品定めは一筋縄ではいかない。この連載では、ヴィンテージの魅力を再考しながら、さまざまな角度から評価すべきポイントを解説していく。連載第2回は、スネイルデザインを採用したオメガの1940年代初期のクロノグラフを紹介する。
ダイヤルデザインが際立つオメガの古き良き時代のクロノグラフ
ヴィンテージウォッチの世界において、クロノグラフは最もマニアックなジャンルのひとつであり、その奥行きは果てしなく深い。オメガを例に取ってみよう。
オメガのクロノグラフと言えば、真っ先に「スピードマスター」が思い浮かぶと思うが、初代の「CK2915」が誕生する1957年よりも前から記念碑的なモデルを手掛けてきた歴史がある。
数ある傑作の中でも通称“33.3クロノグラフ”と呼ばれるモデルは別格の人気を誇る。この名は搭載された「33.3CHRO」というクロノグラフ専用の手巻きムーブメントに由来する。製造期間は1930~1940年代頃でいくつかのバリエーションがあり、ケースやダイヤルの仕様によって評価が大きく異なってくる。昨年、オメガからこの時代のクロノグラフにインスパイアされた「スピードマスター クロノスコープ」が発売されたことからも評価の高さが窺える。
こちらの個体は1940年代初頭に製造されたもので、外周にタキメーター(速度計測)、中央にテレメーター(距離計測)、その間にパルスメーター(脈拍計測)を渦巻きのように配したスネイルデザイン仕様のダイヤルが目立つ。
特筆すべきはプリントでなく、ブラックダイヤルの下地を出すことで3つのカラーを用いてメーターを表示している点にあり、これは当時の優れた外装技術による賜物である。この他にも古き良き時代のクロノグラフの意匠が随所に散りばめられている。
希少性に加え、時計全体のコンディションもずば抜けて高い。価格設定を大きく左右するギルトダイヤルはダメージが極端に少なく、80年近く前に作られた時計であることを考えると感慨深いものがある。ケースの状態も上々で研磨による丸みは見られずエッジの効いたフォルムを残している。
そもそもの話になるが、ヴィテージウォッチの収集は趣味性が非常に高く、多くのコレクターは時計に対して実用性以外の魅力を求めている。この点からもオメガの33.3クロノグラフは典型的なコレクターズアイテムだと言え、ユニークな機能から生まれたデザインや質の高い仕上げは、まるで美術工芸品のような輝きを放っている。
昨今、腕時計への投資や資産性についての話題が世間を賑わせているが、ヴィンテージの市場は一時期よりも相場が落ち着いている一方で、良質な個体に関しては店頭での動きが早まっている傾向が見受けられる。ここで紹介した33.3クロノグラフのレベルになると、市場に出ること自体が稀であるため、気になる方は早めの来店をお勧めする。
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