PERSON

2025.10.16

高倉麻子の殿堂入りで見えた、女子サッカーの現在地

元サッカー女子日本代表の高倉麻子さんが、日本サッカー殿堂入りを果たした。国際Aマッチ通算79試合29得点を誇り、2021年東京五輪では「なでしこジャパン」の監督も務めた功労者だ。2025年9月に都内で開催された掲額式典に出席し、長年の功績を称えられた。

高倉麻子が語る女子サッカーの現在地 殿堂入りで見えた“未来へのバトン”

サッカー殿堂入りの高倉麻子「バトンはつながっている」

日常は変わった。今は自身の現役時代には考えられなかった光景がある。

2025年9月に都内で開催された日本サッカー殿堂掲額式。日の丸をイメージした白いトップスと赤いボトムスの衣装で晴れ舞台に立った高倉麻子さんが言葉に実感を込めた。

「最近は電車に乗っていてサッカーをやっている女の子を普通に見かける。そんな時代が来たんだなと思う。それが本当に感慨深い」

今回の殿堂入りは、女子サッカー黎明期を支えた半田悦子さん、野田朱美さん、木岡二葉さん、そして長きにわたり女子日本代表を率いた故・鈴木保さんとともに表彰された。

過去に女子では綾部美知枝さんが指導者として、2011年女子W杯で優勝した「なでしこジャパン」がチームとして掲額されているが、元選手が個人で殿堂入りするのは、今回の4人が史上初となる。

「(鈴木)保さんをはじめ、一緒に頑張ってきた4人ということで、非常にうれしく思います。私たちの前の世代にもたくさんの先輩方がいる。

昔はもっともっと(女子サッカーの)環境が悪いなかで少なからず差別もありました。その方たちと一緒にこの賞を受ける思いです」

高倉さんは感慨深げだった。

男子に交じって磨いた才能。“何もなかった時代”を超えて

最初は半信半疑だった。高倉さんは殿堂入りの知らせを受けた瞬間を、こう振り返る。

「本当に信じられなくて。間違いメールかと思いました」

10歳の頃、地元・福島で草野球仲間の男子に誘われて少年団でサッカーを始めた。女子はチームで1人だけ。周囲から好奇の目を向けられながらも、優れた身体能力を生かして、男子に負けじと必死にボールを追いかけた。

サッカーができる環境を求めて中学時代は都内のチームに通い、高校時代は男子部員に交じって汗を流した。

1983年、15歳で日本代表に初選出。16歳で国際Aマッチデビューを果たし、世界選手権(現・女子W杯)に2度出場。女子サッカーが初めて正式種目となった1996年アトランタ五輪のピッチにも立った。

「私たちがサッカーを始めた時は何もなかった。リーグもW杯も五輪もない。ただサッカーが好きでボールを追いかけ、そこで仲間たちと次の試合に勝ちたい、アジアで1位になりたい。そんな思いでした」

2011年の女子W杯優勝、2012年ロンドン五輪銀メダルで日本女子サッカーは脚光を浴びたが、その後は2016年リオ五輪出場を逃すなど、苦しい時期もあった。

高倉さんは2021年東京五輪で監督としてチームを率いたが、ベスト8で敗退。目標のメダルには届かなかった。それでも、その挑戦は後世に確かな足跡を残した。

「(W杯で)一度優勝したことで、優勝以外は皆さんが認めてくれないというか、優勝を期待して下さるようになった。日本代表が背負う責任の重さは増していると思う」

なでしこジャパンへ託す、未来へのエール

現在、女子日本代表はデンマーク出身のニルス・ニールセン監督のもとで、2027年ブラジルW杯での世界一返り咲きを目指して再スタートを切った。2026年3月にはW杯の予選も兼ねたアジア杯も控える。

「本当にバトンはつながっていると思う。私たちから受け継いだ強い気持ちで、もう一度世界一になれると信じています。必ずやまた成し遂げてくれると思っています」

自身が築いた道を次の世代へ。エールを送った高倉麻子さんは、優しい眼差しでなでしこたちの未来を見つめている。

高倉麻子/Asako Takakura
1968年4月19日、福島県生まれ。現役時代は読売日本サッカークラブ・ベレーザ(現日テレ・ベレーザ)で長年プレーし、日本女子リーグで二度のMVPを獲得。日本女子代表としても79試合29得点を記録した。年代別代表の指導者を経て、2016年4月からなでしこジャパンの監督に就任。2019年女子Wワールドカップはベスト16、2021年東京五輪はベスト8。現在は中国女子リーグの上海農商銀行で監督を務める。

TEXT=木本新也

PHOTOGRAPH=JFA/アフロ

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