かつてHKT48のセンターとして15歳でデビューし、中心メンバーとして注目されていた兒玉遥さん。しかし華やかな舞台の裏で、彼女は躁うつ病と戦っていた。AKB48選抜総選挙のプレッシャーや紅白歌合戦勘違い事件など、赤裸々に告白。当時の葛藤と心の闇に迫った。インタビュー1回目。

アイドル時代の「躁うつ病告白」の葛藤
「アイドルがうつになって、そしてそのことを人前で告白するなんて、あってはいけないことだと思っていました。だって夢を届ける立場の人間が、うつになったなんて……」
現在、女優として活躍する兒玉遥さんはそう振り返る。
2011年にアイドルグループHKT48のセンターとして15歳でデビュー。21歳で躁うつ病と診断され、2年間にわたる療養の日々を過ごした。
症状がひどい時は意識が朦朧とし、幻覚を見る「せん妄」に悩まされ、1日中、妄言をつぶやくこともあった。「ここまでうつの症状が悪化して、元のように元気になれる確率は1割程度」と医者が母親に告げるほど、深刻な状態だった。
しかし、そんな状態を乗り越え、彼女はその“1割”を掴んだ。
「卒業してからは『アイドルだって同じ人間、落ち込むことがある』と伝え、『躁うつ病を克服することはできる』と発信することで、同じ病気で苦しむ人たちに勇気を与えられるんじゃないかって考えるようになったんです」

1996年福岡県生まれ。アイドルグループ・HKT48の1期生。「はるっぴ」の愛称で親しまれ、2012年にAKB48「真夏のSounds good!」で初選抜入りを果たす。2016年にはAKB48選抜総選挙で9位に輝いた。2017年2月に躁うつ病を発症し休業。復帰後の2019年6月にHKT48を卒業し、俳優としての活動を本格化した。出演作に、NHK朝の連続ドラマ小説『おむすび』、映画『空のない世界から』など。出演映画『そこにきみはいて』が2025年11月28日公開。
自伝で明かした過食・整形依存という「黒歴史」
兒玉さんは、自伝『1割の不死蝶 うつを卒業した元アイドルの730日』で、アイドル時代の過酷な日々を赤裸々に綴った。
ファン投票によって順位が決まる「AKB48選抜総選挙」の重圧と、「完璧なアイドルでいなければならない」と自分にかけた呪縛。あらゆるものに追いこまれ、病気を発症していく過程と、療養・治癒の日々。過食嘔吐を繰り返し、不安から美容整形に依存。総額1000万円を投入していたことなど、まさに「黒歴史」ともいえる過去を包み隠さずに記している。
「今って、SNSなどをとおして嘘が見抜かれやすい世の中になってきている気がします。だから何かを隠すよりも、めいっぱい自分を曝け出して自然体でいるほうがいいなって。もう隠すものなんてない、それくらいこの本で語ったつもりです」

総選挙の重圧と、評価され続ける苦しみ
もともとダンスは得意ではなかった。デビュー当時の自分を振り返り、兒玉さんは「芋虫がうねうね踊っているみたいだった」と笑う。それでも人一倍努力を重ね、自分を超えようとする姿が評価され、グループ結成時にセンターに選ばれた。
それは「応援したくなる」「身近に感じる」という、AKB48グループ独特の輝きを当時の兒玉さんが放っていたからだろう。
しかし、当時15歳の少女にとって、それは「自分よりかわいくてダンスが上手な子がいるのになぜ?」「センターになる基準とは?」という戸惑いに変わり、やがて得体の知れないプレッシャーになった。
「総選挙では数字によって明確に自分が評価されます。その投票数と順位が自分につけられた点数のようで、でも何を頑張ればその点数がつくのかもわからず、どんどん落ち込んでいきました」

全国のAKB48グループから、ファン投票によって選ばれた48人の選抜メンバーが出場した2017年のNHK紅白歌合戦では、生放送でその順位が発表された。当時、すでにうつの症状が出ていた兒玉さんは、舞台上で自分が何をしているのかわからなくなり、1位の発表時に舞台の中心にかけよってしまった。
「自分が1位だと思ったのか」「勘違い女」などSNSで批判され、そこからますます症状は悪化していく。
「今思えば、どんな仕事でも評価され、他の人と比べられる場面はあります。売上だけでなく、お客さんや取引先との関係も含まれていることだってある。
何をもって評価されるのかわからなくなる戸惑い。私が当時抱えていた不安は、きっと誰もが持ち得るものなんだと思うんです」
生放送で自分の評価が発表されることは誰もが経験することではないが、ビジネスの世界でも給与や報酬が自分につけられた点数のようにも思えて、恐ろしく感じることだってある。
相対的に評価されること、自分に順位がつくこと、そしてそのプレッシャーと闘い続けること。それはアイドルに限らず、誰もが直面することだといえるだろう。
インタビュー2回目に続く(2025年9月20日公開予定)。
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