初対面の時ほど、相手の情報がない分鞄や靴、時計が第一印象を左右すると話す、森田恭通氏。普段スーツではないだけに、その選択肢は多く、最近ハマっているブランドもあるとか。業界一個性的ともいえる、森田氏のファッションに添える鞄と靴とは? デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である。」Vol.55。
鞄や靴は大切な情報源。だからこそ必要な清潔感
さて男性のファッション小物といえば、鞄と靴、そして時計。それらは男性にとって、名刺のような存在ではないでしょうか? 僕の尊敬する先輩、フランフラン創業者の髙島郁夫さんは常々「靴が汚い人は信用できない」と言っています。鞄や靴のチョイスにはその人の趣味や趣向が出るだけに、初対面の際に相手を知る目安にもなります。ジロジロ見るわけではありませんが、初対面だと相手の人となりが未知数な分、鞄や靴などが、印象を大きく左右すると僕は思うからです。最低限きちんと手入れをしているとか、清潔感のあるものを持つということが、重要だと思います。
僕はスーツを着る機会があまりなく、ファッションを自由に楽しめる分、鞄も靴も選択の幅が広い環境にいます。今や僕のトレードマークとなりつつある25年来の鞄はクロムハーツのものです。iPadが入る実用的なサイズで、ハンドルは手に持つことも肩にかけることもできる絶妙な長さ。いい具合に仕上がってきました。ここ数年、これを超える鞄をずっと探しているのですが、なかなか出合えていないのが正直なところです。
我が家では妻とエルメスのバーキンを共有しています。僕が初めてバーキンを手にした頃は「男性が持つの?」と、まだまだ白い目で見られる時代でしたが、僕はカスタムペインターの倉科昌高さんに、カスタマイズしていただきました。ブルーのバーキンにファイアやスカルの柄を描いていただいたところ、かなり個性的な仕上がりに。後日パリのエルメスに鞄を持って入った際、店員さんに見つかり、怒られるのかなと思ったら「見せてくれる?」と大勢の店員さんに囲まれたのも懐かしい思い出です。
一方で靴もたくさん持っています。長年クリスチャン・ルブタンを愛用していましたが、今やメジャーブランドとなり、たまに人とデザインが被ってしまい、最近はもっぱらエンダースキーマにハマっています。靴工房でキャリアをスタートしたデザイナーの柏崎亮さんのブランドですが、履き心地が抜群。そのうえ、革を意外な使い方で遊び、スタイリッシュなデザインに仕上げています。もちろん、革のプロフェッショナルだけにメンテナンスも完璧。
また先日訪れたマイアミで、髙島さんから薦められて購入したAlo Yogaも久しぶりにお気に入りのラインナップになりました。日本未上陸のヨガブランドですが、靴が何より履きやすい。デザインもシンプルでかわいいのです。
当然のことながら鞄にも靴にもデザイナーが存在し、服に比べると一見、面積は小さいですが、存在感と主張がはっきりとあります。僕はそういう主張を感じられるアイテムに惹かれるようです。
2024年の秋頃から、ファッション業界には大きな動きがありました。シャネルの新しいアーティスティックディレクターに、2020年までボッデガ・ヴェネタで活躍したマチュー・ブレイジーが就任し、一方でエディ・スリマンがセリーヌから、ジョン・ガリアーノはメゾン マルジェラから、それぞれ退任しました。2025年は世界でまた大きな動きがあるのでは? そして僕にも新しい鞄や靴との出合いがあるのか? と今から楽しみです。
森田恭通/Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍する傍ら、2015年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」を主宰。