放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。
「自分を変えるために上京してきました」
これは11年前、EXIT兼近に初めて会ったときの言葉。
彼のように、NSCには「自分を変えたい」「現実を変えたい」と思い立ち、吉本の門を叩く生徒がたくさんいます。
何ごとにも挑戦をせず二十歳になった、いじめられた地元の人間を見返したい、ブラックな職場で一生働きたくなかった……など、その理由はさまざま。
講師生活をふり返ると、お笑いを教えた時間より、彼らの「現実を変えたい」という心の駆動を励ましてきた時間のほうが長いように思えます。
皆さんの中にも、「現実を変えたい」と考えている人がいるのではないでしょうか?
今回は、そんな方に向けて、僕が生徒たちに伝えてきた「現実を変えたくなったときの思考法」を、2つのケースに分けてシェアしていきます。
ケース① 「組織」を変えずに「意識」を変える
まずは、現在の仕事を続けながら現実を変えたい場合です。
NSCにも、芸人の道を選んだけど、なかなか評価を得られない、やりがいを見出せない、人間関係が面倒だ……などの理由で“仕事は合っているけど職場が合っていない状態”に陥る生徒がけっこういます。
そんな彼らに伝えているのは“現実は事実ではない”という思考のツボです。
例えば、生徒たちは吉本に入って半年が経つ夏ごろに、仕事と職場にズレを感じはじめるので、僕はさりげなく「教室どう? 暑い?」と聞きます。
すると、男子生徒は「暑い!」と口を揃えますが、女生徒は「(クーラーで)ちょっと寒いです」と異を唱えます。
そんな「個人差あるある」を一同で再確認したうえで、こんなふうに続けます。
「しょせん、現実と事実は違うから、今見えている自分の現実をすべて“正しい”にしたらあかんよね。自分で妙な事実をつくり出している可能性もあるから、もしも現実を変えられなくなったら、現実を見るこっちの目線を変えないといけないよね」と。
私たちは、18歳なら18年間、40歳なら40年間、見てきたもの、経験したものを「思考回路」という配線ケーブルにして、それぞれの「つなぎ方」で脳に接続しています。
しかし、ときに「偏見」というエラーもあるので、そのつど「目線」という小さなコードの配線を変えてみる。
すると、正常に作動したり、視界がクリアになったりするというのが、間もなく50歳になる僕の知見です。
かんたんに「組織」を変えることはできないけど、自分の「意識」なら可能。NSCから羽ばたいていった人気芸人たちには、こういった僕の思考法が息づいています。
ケース② 「納得」より「獲得」優先で生きる場所を変える
読者の中には“仕事も職場も合わなくなってきた”という方もいらっしゃるでしょう。
転職・副業の時代ですし、前述したようにNSCには過去の自分と決別したい生徒が多いので、選択肢として「転身」もアリだと思います。
しかし、押さえておきたいのは“転身した場所で同じパターンを繰り返さないこと”です。
例えば、EXIT兼近のように「自分を変えたい」という生徒は多くいましたが、全員が彼のようなブレイクスルーを果たせたわけではありません。
「芸の道は厳しい」と言えばそれまでですが、僕には一つの違いがあったように思えます。
それは“「納得」と「獲得」の差”です。
私たちは、「納得」してから行動に移しがちですが、すべての仕事が「納得つき」ではありません。
異業種であれ異国であれ、せっかく自分や現実を変えるために新天地へ行くのだから、上司の言葉で納得したり、先輩に説得されたり、「他人をテコ」にして動くのではなく、腹落ちはしていないけど動き出してみて、小さな成果物でもいいから「獲得」する。
こういった思考を頭の片隅に置いておくと、転身先はあなたを手放したくない人材として丁重に扱うはずです。
人生半ばの僕も、まだまだ現実を変えたいと思っている一人。共にもがき、獲得していきたいですね。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。