放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。
「私の会社では“上司より早く出社する”という謎のルールがあるんです。桝本さんは、こういった職場の古い慣習についてどう思いますか?」という質問をいただきました。
「サービス残業は当然」、「忘年会などのイベントに強制参加」、「ゴミ出しは若手や女性の仕事」など、いまだに“上層部に言わせれば「伝統」、社員にしてみりゃ「悪しき慣習」”は多く存在しますよね。
そこで今週は、30年間、謎ルールだらけの芸能界で息をしてきた知見をふまえ、リーダーポジションの方にシェアしたい「伝統と悪しき慣習」についての一考察です。
伝統は「守る」ものではなく「使える」かどうか
まず、多くの組織のリーダーは、「伝統=守るもの」という思考に居ついてしまっています。
先人が築いた組織風土を守ることが美徳かつ最優先で、部下が謎ルールについて疑問を呈しても、「伝統だから」「そういうものだから」という定型句でハネつけます。
しかし、ただ保全するのは、おばあちゃんの家にある黒電話や足踏みミシンなどの“遺品”と同じ。
伝統は「守るもの」ではなく「続けるもの」なので、黒電話が、プッシュホン、ショルダーフォン、スマホになっていったように“時代に合わせて変える=使えるものにしていく”ことが大切。
言わば、現役世代が使いこなせるものでなければ無価値で無用。そう、悪しき慣習になってしまうんです。
企業や業界は、SDGsには取り組んでいるのに、伝統については“どうすれば持続可能か?”を思考していない。
私たちはそこから始めなければならないと感じています。
伝統か悪習か? リーダー5人に問えば2秒で分かる
皆さんの職場に存在する謎ルールが、伝統or悪しき慣習かを知るのはカンタンです。
例えば、今回の相談者さんの上司5人に、「なぜ、上司より早く出社する必要があるんですか?」と、聞いたとしましょう。
きっと、「オレの入社時からそうだった」とか「決まりだから」といった曖昧な返答が並ぶはずです。
こういった、リーダーポジションの面々が、「なぜやっているのか?」を答えられず、「必要なものなのか?」さえ議論していない“思考停止になっているルール”は、すべて悪しき慣習です。
芸能界にも、「本番前に、後輩が先輩の楽屋に出向いて挨拶をする」という謎のルールがありますが、明瞭な答えをもっているベテランは少ないですし、廃止を唱えている方も多いので、個人的には、もはや“しがらみ”だと感じています。
社風は、異を唱えるヤツが出てくると受け継がれてゆく
では、職場の妙な慣習に対して、私たちはどう向き合っていけばよいのでしょう?
その答えは、「今すぐあなたが異を唱えてみる」です。
なぜなら、社内や業界ルールは「破壊者の登場」によって“使えるもの”になっていくし、良い伝統や社風がさらに発光していくからです。
吉本興業には、「漫才師はスーツを着ないとダメ」という暗黙の掟と、「髪型をころころ変えるとキャラが定まらない」という教えがあります。
しかし僕は、あえて異を唱え、「好きな服を着て、好きな髪型にすればいい」と生徒らに伝えました。
そのエビデンスはこうです。
昨今のお笑いファンは、インスタをはじめSNSで推しの生活をチェックしています。なのに芸人が、同じ色のスーツ&髪型だと日々のタイムラインは味気なくなります。
さらに、K-POPアイドルをはじめ令和のアーティストは、同じ楽曲を披露するときでも、毎回さまざまな衣装を着て、まったく違うヘアスタイルや髪色で歌唱。若者はそのファッションをこぞってチェックし、彼らに愛着を抱いていく。
なぜ、芸人だけが変容しないのか……?
僕の持論は、若手芸人に「考える機会」を与え、その中で、EXITのような渋谷系ファッションで漫才をするコンビが生まれ、いっぽうで「いろんな服を選択してみたけど、やっぱりスーツがかっこいい」と、“漫才師のスーツの良さ”を再発見してくれる若手も増えました。
社の伝統や精神の耐用年数をあげていくには、こういった“異論によって研磨していく”ことも必要なんですね。
それでは、また来週お逢いしましょう。