PERSON

2024.05.23

舘ひろし、『あぶない刑事』は柴田恭兵への嫉妬から始まった

2024年5月24日より公開の映画『帰ってきた あぶない刑事』。主演の舘ひろしと柴田恭兵が38年にも渡って演じてきた「あぶない刑事」とふたりの関係を語る。

笑い合う舘ひろしと柴田恭兵/映画『帰ってきた あぶない刑事』

「役作りなんてなくていい、タカは俺で、ユージは恭サマだから」

銃を構えるしなやかな手の動き、アクションの際にはためくトレンチコートの裾……。1986年当時30代だった舘ひろしと柴田恭兵のダンディズムと、クスリと笑えるコメディ要素で一世を風靡したドラマ『あぶない刑事』。

『踊る大捜査線』『相棒』など、のちの日本の刑事ドラマの雛形になったとも言われる伝説的ドラマだ。映画化はこれまで7本、その総興行収入は98億円にものぼる。

そして2024年の今年、8作目となる映画『帰ってきた あぶない刑事』が封切られる。アクションも多い本作を70代で演じ切った舘ひろし、柴田恭兵に作品への想いを聞いた。

――8年ぶりに「あぶない刑事」を撮ろうと言われた時、どんなお気持ちでしたか?

舘ひろし(以下、舘) 文句なしに嬉しかったです。僕は撮影当時73歳でしたけれど、体力的にはもう1回は『あぶない刑事』、できるなと思っていましたから。

柴田恭兵(以下、柴田) 僕は、もういいじゃないかと。前作で『さらば あぶない刑事』って言ったんだから、またやったら詐欺じゃないかって(笑)。

でも娘かもしれない女性が現れるっていう設定はいいなと思いましたし、舘さん演じるタカと、僕が演じるユージのプライベートの顔がスクリーンで初めて出せるなら面白いのかなと。

もちろん、舘さんが『集合!』っておっしゃったのでもうそれは文句なく集合させていただきました(笑)。

 8年ぶりに撮影現場で恭サマ(柴田)と会って、そうしたら何年開こうが、すぐにタカの気持ちに戻れたんですよ。本当に、一瞬で。

これだけ長くひとつの役を演じていたら、役作りなんてなくていい。タカは俺で、ユージは恭サマなんだから。僕らの人生の半分は、『あぶない刑事』やっているんですからね。

笑う舘ひろし
舘ひろし/Hiroshi Tachi
1950年愛知県生まれ。1976年俳優デビュー。同年『男組、少年刑務所』で映画初主演。ドラマ『西部警察』などで人気を博す。2024年には映画『ゴールデンカムイ』が公開。現在は連続ドラマ『ブルーモーメント』にレギュラー出演中。

「俳優・柴田恭兵に対する嫉妬だったんだと思います」

――「あぶない刑事」という作品は、おふたりの俳優人生においてどんなものでしょうか。

 俳優として僕が幸運だと思うのは、こういう代表作と呼ばれるものに出合えたということ。

柴田 そうですね。僕は若い頃、『あぶない刑事』が大きくなりすぎて、『柴田恭兵はユージだけじゃないぞ、他もできるんだぞ』ともがいていた時期もありました。

けれど他の作品をやって、また『あぶない刑事』の撮影に帰ってくるというサイクルのなかで、定期的にキャストのみなさんに会えるっていうことは、自分が思っている以上に、僕の人生で大事なことだったんだと思います。

 そう、実家みたいな作品になりましたね。帰る場所があるっていうことは、俳優にとっていいことですよ。僕はね、実は38年前にテレビシリーズの撮影が始まった頃、この作品がこんなにヒットするなんて思いもしなかったんです。恭サマのことも、『なんだか変わった芝居するな、イヤだなって』思ってましたから(笑)。

柴田 (笑)。

 今思えば、それは俳優・柴田恭兵に対する嫉妬だったんだと思います。だって僕は、彼のようにサラッと面白い芝居なんてできませんから。

恭サマが作品を面白くしてくれるんだって、そのことに気がついた時、じゃあ僕は彼と違う部分で作品の土台を作っていこうと思えた。

そういう意味で柴田恭兵は、『あぶない刑事』のフォーマットを作ってくれた人です。

柴田 当時、撮影が始まってしばらくして、舘さんが僕に『なんかちょっと違う感じがする、君の芝居はちょっと笑いに寄せ過ぎていてカッコ悪くないか』っておっしゃったんです。

そんなこと言ってくれる俳優さんを他に知りませんでしたから、僕はこの人はなんて正直で素敵な人だろうって本当に思ったんです。ああ、こんなに正直な人とだったらいい作品ができると。

走るシーンもスピードが違って上手くいかなかったので『じゃあ、一緒に走るシーンはやめて、走り出したら二手に分かれるようにしましょう』とか『説明セリフは僕が言うようにします』とか、いろいろアイデアを出してふたりでつくっていきましたね。

衣装さんもこだわってくれたり、ハードボイルドが得意な監督もコメディ風に撮ってくれたり。全員がバカバカしいものを本気で撮ろうと頑張っていたんです。

柴田恭兵
柴田恭兵/Kyohei Shibata
1951年静岡県生まれ。1975年俳優デビュー。ドラマ『赤い嵐』、映画『チ・ン・ピ・ラ』などで主演。『あぶない刑事』のヒット以降数々の刑事ドラマに出演。近年はドラマ『両刃の斧』『舟を編む ~私、辞書つくります~』などに出演。

 そう。バカバカしいものを、真面目に本気で撮っていたんですよ(笑)。そうしているうちに、ロケ中に女の子たちに『キャー!』とか言われるようになりましてね。

柴田 昔、撮影している際に、近くに女子校がありまして。舘さんがギャラリーの女の子達に手を振ってあおるんですよ。それで女子校の先生に怒られたり(笑)。そんなふうに『キャー!』って言われることで、だんだんとヒットを当時実感できたんですよね。

 僕もお調子者ですから、ウケればいいか、みたいな。でもどこかでしっかりとハードボイルドを見せたいという気持ちもずっとあって、それを活かしながら演じていました。

柴田 だから舘さん、犯人見つけたらすぐ撃とうとしちゃうんです(笑)。

 その頃、僕は毎日誰とデートするかばっかり考えていたから、台本ちゃんと読んでなかったの。あれ? まだ撃っちゃダメなのってね、ごめんね(笑)。

柴田 でも最新作は、舘さんがバイクに乗るシーン、今までのシリーズで1番カッコいいですよ。

 今回はすごく時間をかけてバイクのシーン撮りましたから。僕はバイクに乗っているだけですが、恭サマはいつもどおりたくさん走って大変でしたね。

柴田 まったくスピードが出ず、キレもあまりないですが、そういう姿こそ見てほしいですね(笑)。

インタビュー後編は5月24日公開予定。

TEXT=安井桃子

PHOTOGRAPH=杉田裕一

STYLING=中村抽里(舘)、古舘謙介(柴田)

HAIR&MAKE-UP=岩淵賀世(舘)、澤田久美子(柴田)

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