PERSON

2024.04.01

岸博幸、アメリカ人の恋人が教えてくれたこと

2023年1月、多発性骨髄腫という血液のがんに罹患していることを知った岸博幸氏。余命10年を告げられた岸氏が、闘病の記録や今後の生き方、日本の未来への提案をつづった著書『余命10年。多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』を上梓。1995年から3年間、ニューヨークにあったKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)への出向で再びニューヨークで暮らすことになった岸博幸氏。人生観、そして、性格にも大きな影響を与えたのは、アメリカ人の恋人だった。

社交性に磨きがかかったのは彼女のおかげ⁉

ニューヨーク赴任中、岸氏は同僚のアメリカ人女性と一緒に暮らし、週末はニューヨーク郊外にある彼女の実家で過ごすことも多かったという。そして、それが岸氏のキャラクターに大きな影響を与えたとも。

「アメリカ人は家族との絆をものすごく大切にしています。サンクスギビングやクリスマスといった行事の際は、親戚まで集まって一族で盛大にお祝いすることも珍しくありません。僕も、毎週末のように彼女の実家に招かれましたが、そこで、初めて会うアメリカ人たちとお酒を飲んではしゃぎ、おおいに語りあいました。

その姿を高校生の僕が見たら、きっとびっくりするでしょうね、『おいおい、ずいぶん陽気で、明るい人間になったな』って(笑)。実際、留学中の2年間とKEDOに出向していた3年間で、僕の性格はかなり変わったと思います。アメリカ人的価値観に触れ、端的に言えば、社交的でおしゃべりな人間になったのです」

多くの日本人がイメージする通り、アメリカ人ははっきりと自己主張をし、アクティブでフレンドリー。自分の意見や考えをしっかり持ち、それを口にすることは、アメリカの社会ではスタンダードだ。

「こちらが黙っていても、相手がガンガン話しかけてきて、『これについてどう思う?』『あなたの考えは?』と、意見を求められます。そこで、『いや、別に』と言葉を濁したり、曖昧な笑顔でやり過ごそうとしては、“つまらない人”というレッテルを貼られ、その後交流が途絶えかねません。こうした洗礼を留学と赴任の合計5年間も受け続けてきたのですから、影響を受けない方が不思議でしょう」

彼女が気づかせてくれた「エンジョイ」の大切さ

岸氏は余命がわかったことで、今後の生き方の指針として「ハッピー」と「エンジョイ」の2つを掲げているが、後者の大切さを気づかせてくれたのも、彼女だ。

「彼女からは、ことあるごとに『エンジョイしている?』と聞かれました。エンジョイとは、単に“その場を楽しむ”という意味ではなく、新しい世界に積極的に飛び込み、いろんな経験をすることで、人生を豊かにし、日々を生き生きと過ごすこと。それを再認識させてくれたのが、彼女でした。

その彼女とはどうなったか? 通産省を辞めてアメリカに残り、結婚することを考えたこともありましたが、結局僕はその道を選ばず、任期満了で日本に帰国。その後、自然消滅してしまいました。もし彼女と結婚していたらどうだったでしょうね。きっと、同棲時代と同じように、僕の家事の出来栄えにダメ出しをされ、毎日怒られていた気がします(笑)。

ちなみに、岸氏が妻と出会ったのもニューヨークが関係しています。留学と赴任がきっかけでニューヨークが“第二の故郷”になった僕は、その後何度となくニューヨークに渡航。妻が、よく利用していた飛行機のCAをしていたのが縁で交際するようになったんですよ」

岸氏にとってニューヨークは、人生の転機と人との縁をつないでくれる街だったのかもしれない。

※続く

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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