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2024.02.28

野村克也はメジャーリーグでの監督就任を本気で考えていた

戦後初の三冠王で、プロ野球4球団で指揮を執り、選手・監督として65年以上もプロ野球の世界で勝負してきた名将・野村克也監督。没後4年を経ても、野村語録に関する書籍は人気を誇る。それは彼の言葉に普遍性があるからだ。改めて野村監督の言葉を振り返り、一考のきっかけとしていただきたい。連載「ノムラの言霊」36回目。

野村克也連載第36回/野球の監督は、頭があれば何歳でもできる

組織はリーダーの力量以上には伸びない  

野村克也が監督を打診されたのは1969年のオフだった。

南海ホークス(現ソフトバンク)の監督・鶴岡一人が勇退し、代わった飯田徳治監督が最下位で退任した。野村はまだ34歳で、捕手としても円熟味を帯びてきた時期。

「まだ引退はしたくありません」

「選手と監督、両方をやればいいじゃないか」。オーナーにそう言われ、野村は翌1970年からプレーイング・マネージャー(選手兼任監督)に就任した。

1972年のオフ、当時V8を成し遂げていた川上哲治監督(巨人)から南海にトレードの打診があり、料亭での会談に川上監督は長嶋茂雄を同席させた。

「長嶋は次期、巨人の監督だ。トレードの話し合いがどういうものか見せてやりたい」

野村は思った。

「自分の地位をうかがう人材の育成まで考えるとは、懐が広い。だからこそ、巨人は強い。
逆に言えば、組織はリーダーの力量以上には伸びない。私も精進しよう」

野村は中興の祖。だが、誰にでも「初めて」がある 

野村が監督に就任した4球団に共通するのは、すべて最下位常連のチームで、野村はチーム再建を託されたこと。だから野村は“中興の祖”と呼ばれる。中興の祖とは政権の危機的状況を担当し、その回復・安定化に多大な功績があったと歴史的評価を受ける者のことだ。

今季、2024年監督の過去実績は以下の通り(●は新監督。年齢はシーズン終了時の満年齢)。

・阪神=岡田彰布(67歳)=4位、1位、2位、3位、2位、5位、4位、6位、1位
・広島=新井貴浩(47歳)=2位
・DeNA=三浦大輔(51歳)=6位、2位、3位
●巨人=阿部慎之助(45歳)
・ヤクルト=高津臣吾(56歳)=6位、1位、1位、5位      
・中日=立浪和義(55歳)=6位、6位
・オリックス=中嶋聡(55歳)=1位、1位、1位
・ロッテ=吉井理人(59歳)=2位
●ソフトバンク=小久保裕紀(53歳) 
●楽天=今江敏晃(41歳)
・西武=松井稼頭央(49歳)=5位      
・日本ハム=新庄剛志(52歳)=6位、6位

2023年、岡田は日本一達成後のインタビューで述懐した。

「前回日本一の1985年以来、38年ぶり日本一。当時、私は27歳だった」

岡田は当時の阪神の主力選手として、1985年に日本一を経験。阪神監督としては2005年にリーグ優勝を果たした。だが、2008年は北京五輪後に失速し、巨人に最大13ゲーム差をつけていたものの大逆転され、監督のユニフォームを脱いだ。

その後、2010年からオリックス監督に就任したが、5位、4位、最下位と苦渋を味わった。しかし、その経験を活かし、2023年に阪神でみごと捲土重来(けんどちょうらい)を果たしたのだ。

高津はリーグ優勝2度、中嶋はリーグ優勝を3度経験している。三浦が4年目、立浪と新庄は3年目、新井、吉井、松井は2年目である。阿部、小久保、今江はルーキー監督だ。

岡田以外の両リーグ監督は、いずれも指揮官としては経験が浅い。

だが、どんなベテランにも「初めて」はあるのだ。

メジャー監督を狙うほど、監督業を天職と考えていた

野村は2009年、74歳で楽天監督を退任した。

2010年に尾花高夫がDeNA監督に就任した時、野村は75歳。中畑清が2012年に同じくDeNA監督に就任した時、野村は77歳。

「次はワシにやらせてくれないかなあ」と、野村は本気で監督就任に執念を燃やしていた。

「野球の監督は頭(ここ)があれば何歳でもできるんや」

メジャーリーグではコニー・マックスがアスレチックスで87歳まで指揮を執った。

野村の周囲の関係者は、本気でメジャーリーグでの監督就任も考えていたという。

「野村克也-野球=0」
「野球(しごと)に学び、野球(しごと)を楽しむ」

そのころから色紙にそう記すことが増えた。野村克也から野球を取ったら何も残らない。野村にとって「野球の監督」は天職であり、仕事以上のものでもあった。

どんな人にもそう言えるだけのものがあれば幸せだ。

まとめ
35歳でプレーイング・マネージャーに就任して以来、計24シーズン。野村にとって「野球の監督」は天職であった。すべてを打ち込める仕事を持てるのは幸せである。

著者:中街秀正/Hidemasa Nakamachi
大学院にてスポーツクラブ・マネジメント(スポーツ組織の管理運営、選手のセカンドキャリアなど)を学ぶ。またプロ野球記者として現場取材歴30年。野村克也氏の書籍10冊以上の企画・取材に携わる。

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【野村克也】ノムラの言霊

戦後初の三冠王で、プロ野球4球団で指揮を執り、65年以上もプロ野球の世界で勝負してきた名将・野村克也。今こそ、改めてその言葉を振り返り、一考のきっかけとしてほしい

TEXT=中街秀正

PHOTOGRAPH=毎日新聞社/アフロ

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