各業界のトップランナーや経営者たちは、どんなギフトを贈り合っているのだろう。そんな疑問から始まったこのテーマ。リサーチを重ねるなかで、さまざまな人から「あの人からのギフトはスペシャル!」と名前が挙がったのが、ユナイテッドアローズ名誉会長の重松理氏だ。半世紀に渡ってファッション業界を牽引してきた重松氏にギフト選びの極意を語ってもらった。 【特集 最上級ギフト2023】
“次世代に伝えるべき、日本の真正なる美”を贈る
重松理氏に「究極のギフトとは?」とたずねると、「相手の好みを踏まえてつくったオーダーメイド」という答えが返ってきた。
「今回のテーマで想定しているような人たちは、贈りものをされる機会が多いもの。世界中のすばらしいものを知り尽くしているうえに、何でも持っているだろうと思います。そうした方々には、世界にひとつしかない特別なものをつくり、お渡しすることが多いですね」
趣味嗜好はもちろん、最近夢中になっていることや手に入れたものなど、相手を熟知したうえで、どんなものをオーダーするか決め、素材や色、場合によってはデザインまでも考える。
手間と時間がかかるだけに、相手に想いが伝わる反面、厄介な作業にも思えるが、「いえいえ、すごく楽しいですよ。個人的なバイイングみたいなものですから」と、重松氏。
最近着物を購入したクリエイターには、それに合いそうな帯や合切袋を誂えて贈り、とある経営者の還暦祝いには、似顔絵入りの(舞妓の出店の際に飾られる)目録というちょっとお茶目なギフトを用意した。
「イチからオーダーが難しければ、名入りや家紋入れで差別化をはかってみるのもいいかもしれません。それだけで、世界にたったひとつのギフトになりますよ」
もうひとつ、重松氏がギフトでこだわっていることがある。それは、日本の生活文化に根差した“日本の真正なる美”が息づくアイテムを選ぶことだ。
「日本には、素材にこだわり、卓越した職人技で生み出される素晴らしい品がたくさんあります。それを次世代に継承したい。佳きものを求めて世界中巡りましたが、回り回ってそこに行き着き、今はそれこそが自分の使命だと思っています。
日本の伝統的な生活道具を、ものづくりの背景なども伝えながら贈るのは、普及活動の一環のようなものですね。相手が喜んでいるかは微妙ですが、僕の信念だと思って許してもらうしかない(笑)」
日本ファッション業界を牽引してきたレジェンドが選ぶギフトには、その生きざままでも込められている。
重松理の極上ギフト4選
1.日本独自の技法が光る「印傳屋上原勇七の長財布」&「堀口切子の江戸切子」
オーダーメイドという究極の品に恐縮しそうな相手には、気兼ねなく受け取ってもらえるよう、あえて既製品を贈る。そんな“気遣い”も忘れない重松氏だが、その際選ぶのは日本の伝統美が息づく品だ。
なかでも、取引相手への昇進祝いといったビジネスシーンで多用しているのが、創業400年の老舗、印傳屋上原勇七の長財布。
「鹿革に漆で模様づけをするという日本独自の技法を施す甲州印伝は、江戸時代に生まれたもの。鹿皮は戦国武将の鎧にも使われていて、ビジネスという戦いを勝ち抜くという意味でもぴったりではないかと」
硝子に彫刻を施す江戸切子は、江戸時代後期に誕生し、1985年には東京都の伝統工芸品産業に、2002年には国の伝統的工芸品に指定された日本を代表する工芸品。
よく見かける赤や青の色被せではなく、透明なガラスと黒被せというモダンな組み合わせは、時代を反映した切子を提案する堀口切子ならでは。
「お酒が好きな方に贈ると喜ばれます。ペアなので、ご夫婦で楽しんでくださいと。外国の方へのギフトにも良いと思います」
2.これを履いたら他の靴下に戻れない「イデ・オムのカシミヤソックス」
「一度この靴下を履いたら、もう他のものには戻れない。それくらい惚れ込んでいます」と、重松氏が絶賛するのが、イデ・オムのピュアカシミヤ100%ソックス「LDN071」。
最高クラスのカシミヤ梳毛糸を世界で初めて靴下に仕上げたという、創業120年を数える靴下メーカー、アイ・コーポレーションの魂が込められた逸品だ。
「糸から製法まで、ものすごくこだわっていて、そのものづくりに対する姿勢にはリスペクトしかありません。このソックスを贈った相手は、たいていリピートしていますね」
3.日本人の矜持が込められた「順理庵のシルクカシミヤストール」
日本の技術や精神性、美意識の高さなどが息づく、次世代に残すべき佳きもの。マーケティングやトレンドとは距離を置き、心から良いと思うものに向き合うべく、2016年に重松氏は、和装洋装複合のセレクトショップ「順理庵」を創業。
そこでは、日本の素材を用い、日本で製造した、100%メイド・イン・ジャパンのオリジナルアイテムも展開している。
「男性にも、女性にも喜ばれるのが、シルクカシミヤのストール。非常に軽くて肌触りが良いのでオールシーズン使っていただけますし、洋服でも着物でも、フォーマルにもカジュアルにも装えます。
日本の素材や製造は世界的に見てもレベルが高く、海外のラグジュアリーブランドが注目しています。むしろ、あちらの方が価値をわかっていて、どんどん自分たちの商品に取り入れようとしているほど。ですが、日本の職人技でつくられたものが、海外ブランドのタグをつけて世界中で出回ってしまうのは、日本人としていささか寂しい。だから、こうやってオリジナルをつくり、少しでも抵抗しようとしているわけです(笑)」