PERSON

2023.10.17

雑魚モンスター「スライム」は、なぜ主役になりえたのか【ぷよぷよ物語。その9】

人気を博しているアナログゲーム、「はぁって言うゲーム」を生み出したのは、伝説の落ちゲー「ぷよぷよ」を生み出したクリエーター、米光一成さんだ。天才的発想をし続ける、米光さんの頭の中を知るコラム。ぷよぷよ誕生秘話に学ぶ、企画立案術。

コンセプトを「ソフト」にする

前回までの話はコチラ

「テトリス」の二番煎じにならないようにするにはどうすればいいのか。
考えに考え抜いたうえで「テトリス」の芯である「ソリッド(硬質)」を捨てよう。
いや、捨てるどころか反対の「ソフト(やわらか)」にしよう。
そうすることで、テトリスを構成する要素が、オセロの後半戦のようにガラガラッと反転する。

脳内で、いくつもあった問題点が、ドミノ倒し的に解決したのだ。

まずはキャラクターだ。

「ソフト(やわらか)」で脳裏に浮かんだのは「ぷよぷよ」だ。
少し前に作ったRPGゲーム「魔導物語」の雑魚モンスターのなかで一番弱くもっとも「ソフト(やわらか)」なキャラクターである。

マックィーンがスライムと戦う

「ぷよぷよ」は、スライムだ。

スライムはもともと、目も口もないアメーバ状のドロドロの怪物だった。RPGでは、雑魚敵ではない。ドロドロなため、剣などの物理攻撃が効きにくい手強い相手。ちょいレベルがあがったぐらいに出てくる怪物だった。

映画でいうなら、スティーブ・マックィーンの初主演作品『The Blob』である。B級SF映画なのだが、売れる前のスティーブ・マックィーンが主演しているので日本でも公開された。

邦題も、テレビ放映時は『SF人喰いアメーバの恐怖』だったのに、ビデオ発売時のタイトルは『スティーブ・マックィーンの人喰いアメーバの恐怖』になり、DVDだと『マックィーンの絶対の危機』になってしまった。

最初はアメーバって表記されていたのに、最後にはタイトルから消えてしまった。スライムがマックィーンに食われてしまっている。

米光一成/Kazunari Yonemitsu
1964年広島県生まれ。大学卒業後、コンパイルに入社。現在でも人気の“落ちゲー”「ぷよぷよ」などのタイトルをリリース。その後、フリーランスとして、ゲーム制作ほか、デジタルハリウッド大学教授や、池袋コミュニティカレッジ講師なども。「はぁって言うゲーム」(幻冬舎)のほか、「あいうえバトル」「負けるな一茶」「いっしゅんジェスチャーはぁ?」「言いまちがい人狼」などをリリース。

スライムがグミになる

そのアメーバ状の恐ろしい怪物が、グミっぽいかわいい雑魚敵として認知されたのは、(おそらく)1984年だ。

「ドルアーガの塔」(1984年)と「ハイドライド」(1984年)である。
この2作、どちらもアクションRPGなのだ。

プレイヤーキャラクターを動かして、ボタンで剣をふり、モンスターを倒す。
登場するモンスターは、小さなキャラクターとして登場し、少ないパターンながらアニメーションして移動する。一枚の静止画ではない。そのためドロドロの不定形なキャラクターは描きにくかったのではないか。

で、グミみたいなぷるぷると震えるスライムになった。
剣などの物理攻撃が効かないという特性も、グミ状では表現しにくいので、サクッと倒されちゃう。
最弱な敵として配置されたのは「ウィザードリィ」(1981年)の影響があるかもしれない。

さらに、スライムを、グミっぽいかわいい雑魚敵としたのは「ドラゴンクエスト」(1986年)だ。
堀井雄二によって描かれたラフ絵ではアメーバ状だったけれど、キャラクターデザインの鳥山明の手によって、目と口のついたかわいいグミ状キャラクターに変身した。

RPG「魔導物語」は、コミカルなトーンだったので、この日本独自のかわいいスライムの方向性を受け継いだ。

最初の雑魚敵として登場した、グミ状のかわいいキャラクターだ。口はないが目はついている。そして、「ぷよぷよ~」と叫びながら登場する。

無意識の制約が外れる

落ちものパズルゲーム「ど~みのす」を改善してくれと言われて困っていたことのひとつは、グラフィックデザイナーがもう次の仕事に取り掛かっているということだった。

「ど~みのす」は、サイコロが落ちてきて、そのサイコロの目の合計値で消えていくといった落ちものゲーム。

デザイナーにお願いできないとなると、その制約のまま、つまりサイコロのまま、どうにか改善しなければいけない。そう考えていた。それが無意識の制約になっていた。

だが、「ソリッド」を捨て、「ソフト」をコンセプトにした瞬間に、硬質なサイコロは使えない。

何か別のキャラクターに描きかえるしかない。でも、いまから新しいグラフィックを描いてもらうのは、むずかしい。

どうするか。使い回すのだ。新キャラではなく、過去作のキャラを登場させる。
いや、世界観そのものをもってくればいい。

世界観に厚みがあるパズルゲーム

さいわいなことに、少し前に作った「魔導物語」はコミカルRPGだ。かわいい魔道師の女の子が主人公で、敵モンスターもコロコロとしたかわいいキャラクターである。やわらかい!

つかえる!

しかも、「ぷよぷよ」ぐらいのシンプルなキャラクターだったら、デザイナーの手を煩わせずとも、自分でも描けるんじゃないかとその時は思っていた(結局はデザイナーにお願いするんだけど)。

さらに良いことがある。もうすでに作ったゲームなので世界観が設定できている。しかも、RPGというジャンルは世界観が重要なので、みっちりと作り込まれている。
パズルゲームでは必要がないほどに、みっちりと!

当時の落ちものパズルゲームで、こんなにも世界観が作り込まれたものはなかったはずだ。
というよりも、それは必要なかった。
ブロックや宝石が降ってくるゲームに「世界観」はさほど必要ない。

そこにRPGの世界観(主人公もいる、キャラクターもいる、モンスターもいる、異世界も存在する、そういった世界観)が、落ちものパズルゲームに持ち込まれたのだ。

※続く

TEXT=米光一成

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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