放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位の桝本壮志のコラム。
“2択の罠”に迫る
ありふれた質問ですが、昨今の若者が特殊詐欺の「捨て駒」になっているのは、この“2択の罠”にあります。
結論は“2択を迫る人とは距離を置いていい”。今週のコラムはその理由を綴っていきたいと思います。
①2択を迫る人=あなたをコントロールしたい人
最近、芸人学校でトークバトルをすると、ある論法が増えてきたと感じます。
「やるの? やらないの? どっちよ?」
「悪いと思ってる? 思ってないの? どっちよ?」
「じゃあ、高品質と低品質の商品、どっちを買う?」
そう。相手に2択を選ばせて、物事や立場を断定するのです。
この現象は、「はい論破!」という流行ワードや、メディアのディベート企画が人気になるにつれ増殖しはじめました。
議論のテクニックとしては有効でしょうが、問題は“悪用もできるテクニック”だという点です。
例えば、詐欺勧誘の常套句は、「金持ちになりたい? なりたくない?」→「親孝行したい? したくない?」→ 「1か月で10万稼ぐのと、1回で50万稼ぐの、どっちがいい?」などと誘導していきます。
これは2択を与え“どちらかを選ぶ自由を与える”ことで、実は“相手を思考停止にさせている”のです。
あなたに2択を迫ってくる人=あなたをコントロールしたい人でもある。まずはこれを頭に入れておきましょう。
② 答えは2択? いやいや、答えは無限にある
会社の上司が目を吊り上げて言う「お前はできるのか? できないのか?」
お店で契約や購入の際に言われる「AプランとBプラン、どちらになさいますか?」
モテる男がデートに誘うときに言う「和食とイタリアン、どっちがいい?」
ワイドショーが掲げる「アメリカと中国、どちらと仲良くすべき?」
……などなど、私たちの周りは2択であふれています。
しかし、上司が「できる? できない?」と2択を差し向けても、よく考えると、ネクタイの結び方を知らなかった少年が、いつの間にか数秒で結べるようになるように、「経験をつめば人はできるようになる」というケースは多いです。
そう、「できる」「できない」だけでなく“今はできない”という考え方があって当然なのに、その思考を停止させ屈服させようとする。
これが2択を迫る人の悪魔性なのです。
他にも、「和食とイタリアン」と聞かれても「中華」や「フレンチ」という別解もあるでしょうし、「アメリカと中国」と聞かれても「インド」や「グローバル・サウス」なんて選択肢があってもいい。
2択を迫られたら“答えは、あなたが問う以外にも無限にある”のメンタルで対峙していきましょう。
③「1つの答え」を求めるのは義務教育まででいい
僕は生徒たちにこんなことを伝えています。
「学生時代に、数学や歴史のテストで、さんざん1つの答えを出してきたやろ? でもな、社会に出たらどれだけ無数の答えを出せるかやで」と。
義務教育の間、私たちは1つの答えに辿りつくことに躍起になり、ずっと○か×かで判定されてきた“1つの答えを出すマシーン”でした。しかし社会では“別解の想像力”が活路になります。
例えば、何かイヤなことがあったとき。「自分のせいか」「他人のせいか」の二者択一でなく「誰のせいでもない」という別解を出せると、心がラクかつ豊かになるといった塩梅。
日本人は、おひらきの時間が近くなると「何かしらの結論」を出そうとしますが、ユダヤ人は“あえて結論を出さない”。Aという答えも、BもCもDもあるよね。素敵だよね。と“何が正しいかを断定しない”。そして翌日、また同じ議論をダラダラ話すことを好むそうです。
この、答えに良し悪しや優越をつけず、“ぼんやり”しておく思考が今の私たちには必要だと思っています。
それでは今週はこのあたりで。
では最後に、金持ちになりたいですか? なりたくないですか?
僕の答えは、「そんな2択を向けるあなたとは、一緒にお金持ちになりたくない」です(笑)。