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2023.06.17

「日本は常に優勝を狙える、ブラジルになれる」アンチ森保のシンボルの真意とは

強豪国を破り、W杯ベスト16という結果を残したサッカー日本代表。だが、森保一監督への評価は少し複雑だった。それはなぜなのか。スポーツライター・金子達仁が各人へのインタビュー取材から迫る。連載5回目。【#1】【#2】【#3】【#4

写真:なかしまだいすけ/アフロ

久保や三苫をはじめ、日本にはできる選手がいる

長く辛口のサッカー解説者、評論家として活躍してきた日系ブラジル人、セルジオ越後が言っていたことがある。

「ぼくはね、マスコミは親だと思ってる。あなたに子供がいる。テストを受けたら100点取れる能力がある。そんな子が60点しか取れなかったら、あなただったらどうする? もっと頑張れっていうでしょ。ぼくが言ってるのはそういうこと。全然、辛口なんかじゃない」

出自も、経歴も、原体験となるサッカーもまるで異なるセルジオ越後とレオザフットボールは、しかし、日本サッカーに対する根本的な見方という部分では極めて似通っていた。

「ぼくが一番世間との……世間っていうとあれですけど、ちょっとハイライトを見るぐらいな人たちとの乖離を感じるのは、日本人に対しての期待値だと思うんです。久保とか三苫、冨安の活躍、ぼく、全然驚いてないんです。なんでかっていうと、技術だったりフィジカルとか、いろんな部分で日本人と外国人を分けてないんで。このプレーができる選手はいい選手、できない選手は厳しい選手。そうやって見てます。じゃあ久保とか三苫はどうか。これはもう、間違いなくいい選手なんですよ。相手を見ながらプレーできますし、状況に応じた判断能力も高い」

日本人はできる。日本代表には世界のトップクラスとも伍していけるだけのタレントが揃いつつある。いや、それ以上かもしれないとレオザフットボールは見ている。

「たとえばウイング。ぼく、スペインあたりと比べても、日本のウイングの方がいいと思ってるんですよ。相手を見ながらドリブル突破をしかける時に相手の逆をつく能力は、三苫とか久保の方が高いですし、伊東純也ほど縦にいってファーサイドにいいクロスをあげられる選手って、まずいない」

だが、こうした前提に立って日本サッカーを見ている人間は、残念ながらまだまだ少数派である。パリ・サンジェルマンで活躍するネイマールを見るブラジル人の目線と、ブライトンで活躍する三苫を見る日本人の目線は、いまのところ、同じ角度ではない。

そして、60点が取れたことで狂喜できてしまう人たちからすれば、そこに注文をつける人間は「異端」となる。

「ずいぶん言われましたね。お前は何者だ、とか、何を偉そうに言ってるんだ、とか。いくら言われたところで、こっちはそう感じちゃってるんだから変えることもできないし、別に誰かの機嫌をとりたくてYouTubeをやってるわけじゃないんで」

熱狂的なファンを獲得する人間には、強烈な悪意をぶつけてくるアンチもつく。それでも、彼は揺らがなかった。

レオザフットボール
サッカー戦術分析YouTuber。目の肥えたサッカーファンたちから人気を博す。サッカー未経験ながら独自の合理的な戦術学を築き上げ、自身で立ち上げた東京都社会人サッカーチーム「シュワーボ東京」の代表兼監督を務める。近著『蹴球学 名将だけが実践している8つの真理』。

アンチ森保のシンボルとなった!?

「ぼく、サッカーの監督ってレストランのシェフみたいなものだと思ってるんです。最近の日本代表を見ていると、こんなに凄い食材が揃ってるのに、こんなに美味しくない料理作っちゃうんだ、としか思えない。食材がないならまだ我慢もできるけど、あるのにできてない。そんなシェフやレストランを夢中になって応援するのって、無理じゃないですか?」

彼の怒りを、やるせなさを募らせたのは、自分の目には見えている「こうすればよくなる」というポイントが、一向に修正される気配がないことだった。だが、彼がYouTube上で指摘する日本代表の問題点は少しずつコアな層の中で共有されるようになり、ネット上における森保監督に対する不信感は、膨れ上がっていった。

レオザフットボールは、アンチ森保のシンボルとなった。

「切り抜き文化が影響してるところもあると思います。悩んでるわけじゃないですよ。ぼくがしゃべったことを切り取ってまとめる人がいる。それがバズると切り取った人もお金になる。ただ、切り抜きって、どうしても毒の方が広がるんですよね。基本的にぼくは好きなチームしか見たくないし、悪いことはいいたくない。でも、日本代表の試合となるとそういうわけにはいかないし、停滞してるゲームだったら、その理由をあげていくことになる。で、そこだけを切り抜かれると、ぼくってめちゃくちゃ悪いヤツになるんです。悩んでるわけじゃないですけどね」

必ずしも本意ではない形で広がっていく自らのイメージ──それでも彼が「悩んでるわけじゃない」と強調したのには理由があった。

「芸人時代がそう。音楽をやってた時期もあるんですが、その時もそう。ぼく、誰も自分に関心を持ってくれない時代を経験してるんです。叩かれてるって、見方を変えれば人に見られてるってことじゃないですか。無視されるという最悪を経験した人間からすると、受け入れるにしろ反発するにしろ、ぼくの声を聞いてもらえることにはいつも幸せを感じてます」

それでも、日本代表について語る自分と、好きなチームについて語る自分には気持ちの上で明らかな違いがあることを、彼は自覚していた。圧倒的多数から求められる日本代表について論評する作業は、ほとんど義務に近い感覚になりつつあった。

左:金子達仁/Tatsuhito Kaneko
1966年神奈川県生まれ。スポーツライター。ノンフィクション作家。1997年、『Number』掲載の「叫び」「断層」でミズノ・スポーツライター賞を受賞。著書『28年目のハーフタイム』(文春文庫)、『決戦前夜』(新潮文庫)、『惨敗―二〇〇二年への序曲―』(幻冬舎文庫)、『泣き虫』(幻冬舎)、『ラスト・ワン』(日本実業出版社)、『プライド』(幻冬舎)他。

期待は怒りに変わり、怒りは呆れに……

いつごろからか、彼の中からは日本代表に期待するという習慣が消えていた。それは、カタール・ワールドカップが迫ってからも変わらなかった。

あったのは、危機感だった。

「いや、ワンチャンなら十分あると思ってましたよ。40本シュート打たれたって、1本のシュートで勝っちゃうことがあるのがサッカーですから。ただ、今後の日本サッカーの成長を考えると、そういうやり方で結果が出てしまうと、頭を使ってサッカーを成長させようって発想、文化が根付かないじゃないですか」

彼が理想とするのは、できるだけ多くのチャンスを作り、できるだけ少ないピンチを目指すサッカーだった。日本代表にはそういうサッカーができるだけの人材が揃っているという確信めいた思いもあった。だが、彼の目に映る森保監督のサッカーは、多くのピンチが訪れることを前提とし、あとは運否天賦──言ってみればガチャを回すようなサッカーだった。

「日本がフィジカルの優位性のある国だっていうんなら、それでもいいんです。マンチェスター・シティ対マリノスの試合とかをみると、やっぱり身体の幹の太さとか、スプリント、走り出した時の地面を蹴る躍動感みたいなのって、もう全然違うんですよ。じゃあそんな相手をどうやって日本人は倒すのか。フィジカル的なアプローチだけじゃなくて、知性だったり、戦術、トレーニングの方法だったりとか、複合的に詰めていかなきゃいけない。このままのやり方でいくと、タレントがいる時はいいけど、いなくなったら手も足も出ないみたいな国になっちゃいそうで」

彼は信じている。

「日本って、ワンチャンでベスト8を狙うような国じゃなくて、常に優勝を狙える立場になれると思うんです。常に勝てる国。ブラジルみたいな国。でも、協会のやり方や監督選びを見てると、毎回タレント頼みのガチャをやっているとしか思えない」

カタール・ワールドカップの日本代表は、グループ・リーグを2勝1敗で1位通過し、決勝トーナメント1回戦でPK戦の末クロアチアに敗れた。前評判が決して高くなかったこともあってか、目標として掲げていたベスト8入りを果たせなかったにも関わらず、森保監督に対する批判の声は影をひそめた。「手のひら返し」という言葉がツイッターのトレンドに入ったりもした。

だが、レオザフットボールが持つ前提、つまり日本はブラジルになれるという前提に立って見たら、どうだろう。確かにドイツには勝った。スペインにも勝った。だが、内容はどうだったか。もしブラジルが、ドイツやスペインを相手にしてあんな内容の試合をしたら、メディアは、ファンは、諸手を挙げて喜ぶだろうか。

レオザフットボールは、喜べなかった。

期待してくれる人たちがいる以上、これからも日本代表については触れていくと彼はいう。ただ、以前は確実に存在していた熱量を伴った感情がどんどんと消えていき、違った思いが根付きつつあることも自覚している。

「今から思えば、アジアカップのころはまだ日本代表に熱くなれてたんですけどね。最近はもう、怒りというよりも呆れの方が強いかな」

期待は怒りに変わり、怒りは呆れに変わった。次に自分を支配するのはどんな感情なのか。それは彼自身にもまだわかっていない。

※続く(2023年6月18日10時公開)

TEXT=金子達仁

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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