話題の「はぁって言うゲーム」を担当した、異色な経歴をもつゲームプロデューサーの白坂翔さんのヒット哲学について、聞いてみた。前回記事はコチラ。
レッドオーシャンに行きたがらない病
白坂翔さんといえば、もうひとつその名を馳せたゲームに「人狼」がある。このゲームの普及のために、株式会社人狼を立ち上げたほどだ。
さて、人狼とは如何なるゲームなのか。公式HPの説明によれば、「配られたカードにしたがって『市民チーム』と『人狼チーム』にわかれ、会話や言動などから推理をして、市民になりすましている人狼を見つけ出すゲーム」だという。
実際、やってみるとわかるが、騙し合いに対して、いかに説得力をもたせられるかというところに非常に奥深さを感じられるもので、ブームとなるのもよくわかる。
「ゲーム自体は、Werewolfと呼ばれる海外発祥の昔からあるもので、原作者がいる著作物ではありません。当時、海外で流行していて、日本でも一部のマニアの間では知られていたこのゲームをもっと広めたいと思ったんです。
ただ、“海外版のゲームあるある”なんですが、グラフィックのテイストが少しとっつきにくいんですよ。当時、人狼の日本語版をキャッチーな形でつくっているところがなかったので、じゃあ、私たちでやってしまおうと。ジェリージェリーカフェ(※白坂さんが経営するボードゲームカフェ)に集まっていた同世代の仲間たちで、“もう大人なんだから”と会社を立ち上げることにしたんです」
またしても白坂流「フッ軽」の登場となる。
「レッドオーシャンには、行きたがらない性分で(笑)。もはや病気でしょうか」
白坂さんの半生を知った今、筆者を含む読者一同、「白坂さんは、そうだよね!」と膝を打ちたくなるはずだ。
「分母が少ないコミュニティ、ライバルが少ないところで自由に泳ぎたい。そのほうがやりがいを感じるんです」
凡人として戦うにはどうするのか?
レッドオーシャンよりもブルーオーシャンで。
この考えには、自分が天才ではないと気づけたことも大きいのだという。
「経験のないうちは、誰でもそうだと思いますが、大きな風呂敷を広げて、自分は天才だ、そのはずだ、と思ってしまう。でも、だんだん周囲を見て気づくんです。より広い世界を知り、それほどでもないかなと」
米光一成さんという天才に出会ったこともまた、そうした気づきを与えるきっかけのひとつであったことは想像にかたくない。
「この人のセンスにはかなわないな、この人のゲームの発想は自分にはできない」
それでも白坂さんは、その気づきをプラスに転じていく。
「自分は凡人だと気づいたときに、その武器でどう戦うのか。私の場合は、凡人の目線をもっていることこそ自分の強みなんじゃないかと思ったんです。
例えば、「はぁって言うゲーム」でもそうですが、一般的な感覚があることで、こうしたらわかりやすいのではないか、遊びやすいのではないか、という発想も生まれてきます。クリエイーターとユーザーの両方の感覚があるので、凡人的な目線が物事を広く捉えるのには、役立っているかなと。自己正当化する意味でもこのプラス思考は重要だと思います」
ゼロイチか、イチヒャクか。スタートアップなどを目論む新参のアントレプレナーたちも自分の適性を考えることがあると思う。冷静な自己認識が、成功を生むカギとなることは、白坂さんの事例を見ても明らかだろう。
「僕も“ゼロイチ”は好きなんです。けれど、仕事を進めるうちに、“イチヒャク”のほうが、より適性を発揮しやすいということも受け入れられるようになりました」
前向きに捉えるための客観視は、ビジネスにも好影響をもたらしてくれるようだ。
「自分を過大評価しても、過小評価してもうまくいかないと思うんです。自分から見ても、仕事がうまくいっていないな、と感じる人ほど、自己評価が高すぎる、もしくは、低すぎるのいずれか。過信もよくないし、自信なさげなのもよくないです」
分母は少なくとも第一人者になる「鶏口牛後」戦術
ブルーオーシャンに飛び込む不安よりも、そこで獲得できる果実のほうに魅力を感じているところもある。それは、やはりこれまで「第一人者」であり続けたからにほかならない。
「分母が少ないからこそ、今頑張ればブルーオーシャンにおいて第一人者になれる。やはり先行者利益は大きいと考えています。ボードゲームカフェも今でこそ、他社さんも参画されていますが、ジェリージェリーカフェがボードゲームカフェの代名詞となれたのは、大きいです。検索をかけて、トップヒットするのは、一歩早かったことの恩恵でしょう。
始めるのが1年でも遅かったら、『人狼』も『はぁって言うゲーム』もここまで売れたかどうか、わかりませんよね」
第一人者であることのメリットを誰よりも知っている白坂さんだからこその言葉だろう。そして、持ち前の「フッ軽」によって実現に漕ぎ着けてしまう。こうした行動力もならではのものだ。
「鶏口となるとも牛後となるなかれ。座右の銘とまではいいませんが、私の性分には合っている気がしています」
だからといって、“鶏口になれるならなんでもいい”というわけではない。好きなことを仕事にしていくにはそれなりの覚悟も必要だ。
「自分は多趣味なほうだと思ってますけど、好きなことすべてが仕事になるとも思っていません。趣味に留めておこうというものもあります。麻雀やゴルフ、あたりはそっち側。ボードゲームや、人狼、今普及につとめているマーダーミステリーや、将棋はこっち側」
違いは、ブルーオーシャンの第一人者になれるか否かというところになってくる。将棋に関して言えば、高田馬場に将棋カフェ「COBIN」を出店していることでも知られる。
「将棋って、知られている割には、プレーする場が少ないんですよ。道場では、だいたい年配者と少年たち。自分たち大人が気軽に楽しめる場がなくて。今、藤井聡太さんの活躍や、ネット番組によって、普及しているじゃないですか。ならば、将棋カフェを作ろうと」
言われてみればそうである。将棋を知らない人はいないだろうが、ビジネスチャンスを狙う人がいるかと言われれば、どうだろう。こうした「狙いどころ」を定めるところに、白坂さんのプロデュース力が垣間見えるのだ。
「日本将棋連盟さんにも、我々の活動はご評価いただいていて、西参道に今年6月にオープン予定の“駒テラス西参道”においても将棋カフェで参画することになっています」
まだまだ、白坂さんのチャレンジはとどまるところを知らない。この春には、大喜利カフェ「ボケルバ」(=ボケる場!笑)をオープンした。この発想はなかなかない。
「お笑い好きなんですが、大喜利の認知度は上がっていて、いちジャンルとして成立しています。実は、SNSなどでもそうですが、大喜利の回答をしたい人って結構いるんですよ。センスは不明でも、その技を披露してみたいという思い。
お笑いのバッティングセンターじゃないですけど。素人どうしでボケを披露し合う場があってもいいですよね。カラオケも同じですよね。社員には反対されましたけど(笑)」
可能性の追求。この貪欲さもさすが白坂さんといったところ。一方で、自身でも敬遠していた動画配信などにも力を入れ始めている。
「レッドオーシャンと思っていたものも見方を変えれば、ブルーオーシャンになるかもしれない。このあたりは、チャレンジしてみてわかることも多いだろうなと」
第一人者になるために、チャレンジをやめない白坂翔さんの「フッ軽」な姿勢。これが、天才・米光一成と融合して、ひとつの名作「はぁって言うゲーム」が生まれたと考えると、なかなかに感慨深いものがあるといえそうだ。
前編は、下記の関連リンクから。