苦楽をともにした仲間、憧れのアートピース。椅子とは座るための単なる道具ではなく、その存在を紐解けば、人生の相棒とも呼べる存在であることがわかる。チームラボ代表・猪子寿之さんが愛でる椅子と、そのストーリーとは? 「最高の仕事を生む椅子」特集はこちら!
他者が存在し、椅子以外のものに変化するベンチ
さながら大きなプラレールのようなベンチだ。曲がりくねり、上り下り、時には交差しながら、延びゆく先は飲食販売店。さっきまでのベンチはここではカウンターとなって、建物に巻きつく。東京・豊洲の「チームラボプラネッツTOKYO DMM」の前に設置されたベンチは、「チームラボの思想、哲学の象徴」と代表の猪子寿之さんが語る。
「椅子は、昔から芸術家や建築家が自らの思想を表現するためにつくられてきました。このベンチも同じ。チームラボが大切にしているのは、他者の存在を肯定すること。そして連続した物語があること。普通は、座る自分と椅子しか存在しない。でもこのベンチには他者が存在するし、さらに椅子以外のものへと変化することもあります」
複雑に重なる平面、曲面は、座るだけでなく、机やテーブルとしても使用可能。空いている時なら傾斜部分を寝椅子のように使うこともできる。
「大人がご飯を食べている横で、子供たちが遊具のように登って楽しんでいる。そういう光景を見ると、"いい椅子"がつくれたなと思います」
オフィスや自宅ではハーマンミラーの「コズムチェア」を愛用している猪子さん。しかし座ることは少ないそう。「なるべく椅子には座りたくない(笑)。会社ではいつも歩き回っていますし、会議の時もウロウロしていることが多い」
国内外で複数のプロジェクトを同時進行しているチームラボの猪子さんだが、頭のなかではさらにいくつも新しいアイデアが生まれているという。
「実は新しい椅子もつくりたいと思っているんです。道具であり、彫刻であり、遊具でもあるような……そのうち実現できると思っています」
TOSHIYUKI INOKO
1977年徳島県生まれ。2001年、東京大学工学部卒業と同時にチームラボを創業。独創的なデジタルテクノロジーによるアートの展示が国内外で大きな話題に。現在、アートとサウナをかけ合わせた『チームラボ&TikTok, チームラボ リコネクト:アートとサウナ』開催中。