2023年5月26日に「Nagisa」をリリースした22歳のアーティスト、imase。先日韓国での人気ぶりを取り上げたが、これまで新曲をリリースする度にTikTokの再生回数は億単位を記録している。しかし彼は、2年前までは出身の岐阜で稼業に勤しみ、プロとして音楽をつくるイメージもなく暮らしていた。そんなimaseはどのようにして日本のポップシーンのメインストリームで活躍し始めたのか――。インタビュー後編。【前編はコチラ】 連載「NEXT GENERATIONS」とは……
20歳で音楽制作を始めてすぐにデビュー
音楽制作を始めた2年前、imaseはプロとして活動するイメージはまったくなかった。
「中学生のときはプロのサッカー選手になりたかったんです。高校生のころには地元で親の会社を継ぐんだろうなあ、と思っていました。アーティストになるなんて、まったく思っていませんでした。ただ、歌は大好きで、よくクルマの中で歌ったり、サブスクで音楽を聴いたりはしていました」
よく聴いたのはブラックミュージック、あるいはブラックミュージックの影響を感じるシンガーたちの音楽だった。
「ジャスティン・ビーバー、ルエル、ザ・ウィークエンド、それから韓国のシンガーソングライターのDEANです。日本人は星野源さんやiriさん。僕が好きなアーティストの共通点は、メロディーラインが綺麗で、どこかブラックミュージックっぽさがあるところだと思いました」
imaseは20歳のときに、ギターを購入し毎日練習した。その後キーボードで音楽制作を始める。
「最近上京してきましたが、ついこの前までは地元の岐阜に住んでいました。人が少なく静かで、コンビニに行くにもクルマが必要な場所です。そんな環境だったので、近所迷惑になる心配もなく、家では思う存分音を出していました」
特別な音楽教育を受けていないこともimaseにはプラスに働いた。
短歌や俳句にも歌詞のヒントがある
メロディはクルマの運転中に生まれることが多かった。
「僕の曲のなかでも『逃避行』や『NIGHT DANCER』は運転している時に生まれた楽曲です。自宅にいるとついSNSを見てしまうので、曲をつくるときはクルマで走るんです。1人の空間でハンドルを握り走っていると集中力が高まり、頭の中で音楽が鳴り始めます。それを口ずさみながらスマホのボイスメモに録音し、メロディラインをつくっていきます」
1人の部屋で、じっとキーボードと向き合うこともあったという。
「自宅ではあまり考え過ぎないように心がけながらコードを弾いています。鍵盤を押さえながら鼻歌を歌っていると、メロディ生まれてきたりするので、自分の中で突発的に生まれたアイデアを大事にするように心がけています」
メロディを先につくってから、そこに歌詞を乗せていく。
「メロディが先に決まっていると、音数の制約がある程度あるなかで、気持ちよくはまる言葉を選びながら思いもよらぬ言い回しと出合えて、物語が生まれるのが楽しいんです」
言葉と出合えるように、インプットは怠らない。
「文字数に制限のある文学、たとえば短歌や俳句に触れるようにしています。とくに好きな作家さんがいるわけではなく、インターネットで調べていろいろ読んでいます。以前、メディアのインタビューでは、映画の字幕からヒントをもらっていると答えていたんですよ」
ミーハーだからこそリスナーと感覚を共有できる
ポカリスエットのCM曲「Pale Rain」やJTの「でもね、たまには」など、imaseには企業のタイアップ曲の依頼が多い。このようなチャンスも音楽の世界観を広げるきっかけになった。
「CM曲には、決まった商品やテーマがあるなかで楽曲をつくらなくてはいけません。最初は難しさを感じていましたが、実際にやってみると、むしろその制限があったほうが新しいアプローチに挑戦できるということがわかりました。
直近ではサントリーの企業広告で『大人じゃん・ここからだね04』というテーマの依頼があり、その年18歳になる、いわゆる04世代に向けた曲「18(エイティーン)」を書きました。自分自身、とても新鮮な体験でした。このCMががなければ04世代について真剣に考えることはなかったので、とてもありがたい経験でした」
キャリアの短さ、経験の少なさをimaseはプラスのエネルギーに転化して音楽制作を続けてきた。
「僕はミーハーだという自覚があります。でもそれがよかったと思っています。ミーハーだからこそニッチなほうには進まず、マニアックにもなりません。だから、多くのリスナーと同じ感覚を共有できているのかなと思っています。
今はできるだけたくさんの音楽をインプットするように努めています。最新曲『Nagisa』は1980年代シティポップのテイストを意識しました。最近は4つ打ち(1小節に4分音符が4回続くリズムの音楽)やハウスミュージック(1970年代のシカゴやフィラデルフィアで生まれて流行したダンスミュージック)を意識的に聴いています」
imaseの裏声を生かしたバラードを聴けるのが楽しみだ。
▶︎▶︎前編「TikTok再生1億超! デビュー2年で音楽界を賑わす、imaseとは」はこちら
■連載「NEXT GENERATIONS」とは……
新世代のアーティストやクリエイター、表現者の仕事観に迫る連載。毎回、さまざまな業界で活躍する10~20代の“若手”に、現在の職業にいたった経緯や、今取り組んでいる仕事について、これからの展望などを聞き、それぞれが持つ独自の“仕事論”を紹介する。