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2023.05.12

【俳優・松重豊×僧侶・枡野俊明】評価は周りがする、自分はやるべきことをやるだけ

アスリート、文化人、経営者ら各界のトップランナーによる新感覚オンラインライブイベント「Climbers(クライマーズ)」。その第6弾が、2023年4月26日から3日間にわたって開催され、ビジネスパーソンを大いに熱狂させた。今回、俳優・松重豊さんと曹洞宗徳雄山建功寺住職/庭園デザイナー/多摩美術大学名誉教授の枡野俊明さんによる特別講義を一部抜粋して掲載。すべての講義を聴くことができるアーカイブ配信はこちら。※2023年5月2日〜5月15日18時までの無料限定公開。申し込みは画面内右上もしくは下の「視聴登録はこちら」より

松重豊×枡野俊明

『十牛図』に惹かれる理由

松重 40歳の頃になって、ようやく役者という仕事で生計を立てられるようになりました。ただ、演劇を極めたいという思いとお金のために仕事をこなす職業俳優という立場の間で矛盾も感じていたんです。そうした中、寺院に足を運ぶようになり、とくに禅宗が興味深いなあと。雑誌の企画でたまたま枡野俊明先生と知り合い、禅の教えをいただくようになりました。

枡野 その雑誌の企画の延長で、2人で本を作ることになったんですよね。そうしたら、松重さんから『十牛図』をテーマにしたいと申し出があった。『十牛図』は人間が悟りを開く過程を、牛を用いた十段階の絵で図解したもの。松重さん、『十牛図』のどんなところに興味をもったのでしょうか?

松重 役者という仕事は、起承転結ある物語をつくっていくもの。でも、『十牛図』はその物語が破綻している。牛の足跡を見つけ、追いかけ、捕まえて、捕まえた牛を家へ連れ帰ったら牛のことは忘れてしまい、最後は何もなくなってしまう。そんな破綻した物語が興味深かった。『十牛図』は思想の可能性を広げてくれるものなのではないかと感じたんです。

枡野 『十牛図』に描かれている牛は、本来の自己。私たちの中にある、一点の曇りもない美しい心を牛に喩えています。その美しい心は自分の中にあるのに、その存在に気づかずに遠いところを探し歩きます。紆余曲折の末、最後に「自分の中にあったじゃないか」とするのが『十牛図』。そこに気づくか気づかないか。それが「悟り」というものです。松重さんは人生の中で、さまざまな紆余曲折を経験されたんですよね?

松重 いろいろありましたね。20代の頃は役者の仕事では生活ができず、建設会社の正社員になったこともあります。でも、そうした紆余曲折があったからこそ、芝居が好きな本当の自分に気づくことができたと思います。

心をピカピカに磨き続ける

枡野 そうした壁にぶつかることが重要なんです。禅僧は厳しい修行に励みます。座禅を組み、食事を摂らない。これらの修行によって、当たり前だと思っていたことが「ありがたいこと」に変わるのです。お腹が空いたら食べられる、脚がしびれて痛ければ脚を伸ばすことができる。それはなんて幸せなことなんだろうと。

松重 禅寺を訪れると、掃除が行き届いていることに驚きます。掃除という修行を通して、心を磨いているのでしょうね。

枡野 禅の教えでは「一に掃除、二に信心」といわれます。掃除によって、世の中のチリやホコリにまみれた自分の心を磨く。鏡のような美しい心をもっていれば、そこには美しい心が集まってくる。こうしていい縁は広がっていくのです。

松重 確かにそう感じます。禅寺ではトイレもピカピカに磨かれている。こんな美しいトイレでは、絶対に粗相できないなと(笑)。枡野先生の言われる通り、いい縁は重なるものです。邪な気持ちを捨て、自分を磨くことに務めていれば、思いもかけず仕事が増えていく。こうして枡野先生と出会い、お話ができるのも、禅の教えがあってのことだと思っています。

枡野 評価は周りがしてくれるもの。自分はやるべきことを、やっていればいい。それしかないんですよ。

▶︎▶︎松重豊さんと枡野俊明さんの講義全文を動画でチェック。
2023年5月2日〜5月15日18時までの無料限定公開。申し込みは画面内右上もしくは下の「視聴登録はこちら」より。※アーカイブ視聴申し込みは5月14日18時まで

 

松重豊/Yutaka Matsushige
1963年福岡県生まれ。蜷川スタジオを経て、黒沢清監督『地獄の警備員』で映画デビュー。以降、映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍。近年の主な出演作に映画『余命10年』、『逃げきれた夢』(2023年6月9日公開)など。現在放送中の大河ドラマ『どうする家康』に出演中。テレビ東京系列で放送されている『孤独のグルメ』シリーズでも人気を博す。エフエム横浜『深夜の音楽食堂』にてラジオパーソナリティも務め、2020年には自身初の書籍『空洞のなかみ』を上梓。現在、雑誌『クロワッサン』にてエッセイ「たべるノヲト。」を連載。

枡野俊明/Shunmyo Masuno
1953年神奈川県生まれ。玉川大学農学部卒業後、大本山總持寺にて修行。「禅の庭」の創作活動により、国内外で高い評価を得る。芸術選奨文部大臣新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。外務大臣表彰、カナダ総督褒章、ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章など、受賞・受章多数。2006年には『ニューズウィーク』日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」に選出される。主な著書に「禅の庭」シリーズ(毎日新聞出版)など。2023年1月には俳優松重豊氏との対談を収録した『あなたの牛を追いなさい』(毎日新聞出版)を刊行。

TEXT=川岸徹

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