PERSON

2023.05.10

【乙武洋匡】スキャンダル後の放浪旅、参院選出馬の理由

アスリート、文化人、経営者ら各界のトップランナーによる新感覚オンラインライブイベント「Climbers(クライマーズ)」。その第6弾が、2023年4月26日から3日間にわたって開催され、ビジネスパーソンを大いに熱狂させた。今回、作家・乙武洋匡さんによる特別講義を一部抜粋して掲載。すべての講義を聴くことができるアーカイブ配信はこちら。※2023年5月2日〜5月15日18時までの無料限定公開。申し込みは画面内右上もしくは下の「視聴登録はこちら」より

乙武洋匡

スーパーハードモードの人生を歩んできた

「乙武って何をしている人?」「何をしたい人?」と言われることが多いです。小学校の教員や最先端の義足を作るプロジェクトに参加したこともありますし、何でも屋のように思われるのもよくわかります。

私は以前から「選択肢を増やそう」というメッセージを掲げて活動しています。日本は選択肢が少ない国です。体に障害があるから仕事に就けない。セクシャルマイノリティだから結婚できない。海外ルーツだから不動産契約を結べない。お金がないから進学できない。自分で選んだわけではないのに、自分の生きたい道に進めない不自由な国といえます。

選択肢を増やしたいという思いを、どうすれば効率よく実現できるのか。そう考えた結果、政治にチャレンジしようと決意しました。周囲からは嫌な顔をされましたよ。「結局、権力が欲しいのね」と言われて。でも、権力や権限が欲しかった。選択肢を減らしている法や制度を変えるには、権力をもつことが必要です。

2016年、立候補の直前に、プライベートのスキャンダルを週刊誌に書かれ、出馬できる状態じゃなくなってしまいました。原因は自分の不始末。深く反省し、この失敗を糧にしようと思いましたが、世間は簡単に許してはくれません。その後1年間、自宅は週刊誌の記者に張られました。そうした状況に耐えきれず、私は放浪の旅に出ることを決意したのです。

放浪で巡った国は37ヵ国。自分が理想として思い描いていた多様性が、世界にはある。障がい者が暮らしにくい日本よりも、移住してしまったほうが早いのでは。放浪の旅は「移住先探しの旅」に変わっていきました。

スペインのバルセロナ、トルコのイスタンブール、アメリカのサンフランシスコ。特に気に入ったのはオーストラリアのメルボルンです。メルボルンには白人とアジア人が一緒に街を開拓したという歴史があり、欧米に比べてアジア人のヒエラルキーが低くない。さらに街のいたるところにバリアフリー対応が行き届いていて、自分1人の力でも自由に行動できる。日本との直行便があり、時差もわずか1時間。四季があり、湿気も低く、暮らしやすい。世界の住みやすい街ランキング7年連続1位を獲得したのも納得です。

移住を直前でやめた理由

メルボルンに6週間滞在し、移住をほぼ決めたころ、ふと「あれっ、暇だな」と感じました。私は先天性四肢欠損症を患っていて、最初からスーパーハードモードの人生を歩んできた。それがメルボルンで何不自由なく生きられる環境に、物足りなさを覚えたんです。人生の残り約40年、これでいいのかと思いました。

前回、選挙に出られなかったのは、自分の不始末のせい。そこから海外へ逃げ出したわけです。日本に帰れば絶対にいばらの道が待っている。でも、「帰ろう」と決断しました。

昨年、参院選にチャレンジしました。無所属での立候補でしたので、活動資金はあまりありません。大きな政党から立候補すれば都内1万4000ヵ所のポスター掲示板に、半日でポスターを貼り終わる。でも、私にはスタッフがいないため、友人とともに何日もかけて貼りました。結果、6人が当選する東京選挙区で9位。それでも32万を超える票が集まったことがうれしかったですね。

多数派が優先される民主主義の中に、どうやってマイノリティの声を反映させていくか。実現のためには、あきらめずに行動し続けるしかありません。大きな失敗を糧にして、前に進んでいくだけです。

▶︎▶︎乙武洋匡さんの講義全文を動画でチェック。
2023年5月2日〜5月15日18時までの無料限定公開。申し込みは画面内右上もしくは下の「視聴登録はこちら」より。※アーカイブ視聴申し込みは5月14日18時まで

 

乙武洋匡/Hirotada Ototake
1976年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。大学在学中に出版された『五体不満足』が 600万部を超すベストセラーに。 卒業後はスポーツライターとして活動。その後、小学校教諭、東京都教育委員などを歴任。地域に根差した子育てを目指す「まちの保育園」の経営に参画。2018年からは義足プロジェクトに取り組み、国立競技場で117mの歩行を達成。2022年、参院選(東京選挙区)に挑戦し話題に。

TEXT=川岸徹

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