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2023.04.23

元阪神監督・矢野燿大への疑問⑥「監督への再登板をオファーされたら?」

なぜシーズン前に退任を発表したのか、選手選考に私情は挟んだのか、サイン盗みはあったのか……。元阪神タイガース監督・矢野燿大に、スポーツライター・金子達仁が独占インタビュー。今だからこそ話せる、その真意を探る。短期連載第7回。

薬を飲んでも寝られなかった

最下位に終わった3年目の金本体制が、矢野新監督に引き継がれると決まったとき、阪神ファンの中からあがったのは喝采の声だった。

だが、在阪のテレビ局が“優勝前祝い特番”まで作るほど盛り上がった就任3年目にまさかの大逆転を許したあたりから趨勢は変わった。ネット上では矢野を無能扱いする声が飛び交い、やることなすことすべてが批判、非難の対象となった感さえあった。

就任4年目の夏、NHK大阪が制作したドキュメンタリーの中で、矢野はほとんど睡眠が取れなくなっていたことを告白している。

「現役のときから眠りが深い方ではなかったんですけど、あのころはもう、薬飲んでも寝られへん。仕方がないから強い薬に変える。それでも寝られへん。最後は怖くなって、薬飲むこと自体をやめましたけど」

彼をそこまで追い込んだのは、結果であり、メディアであり、そして、ファンだった。

普段からメディアに対して壁を作り、結果を出すことが最高のファンサービスだと考えるタイプの監督──たとえば落合博満であれば、コロナ禍の特殊な取材体制もさしたる痛手にはならなかったかもしれない。

だが、矢野は違った。そして、時に野球界の定石、常識から外れることもある彼のやり方への理解者を増やすには、思いを伝える場が必要だった。3位に終わった就任1年目、記者たちと伝統的な付き合い方が許された時期、彼に対する厳しい声がほとんど聞かれなかったのは、単なる「1年目の御祝儀」だったのだろうか。

右:矢野燿大/Akihiro Yano
1968年大阪府生まれ。元プロ野球選手。捕手。1990年度ドラフト2位で中日ドラゴンズ入団。1998年に阪神タイガースへ移籍。2003年、2005年には、一軍の正捕手としてリーグ優勝に貢献。2008年、北京オリンピックの日本代表メンバーに。2010年引退。2013年〜2015年、侍ジャパンバッテリーコーチ。2018年10月、阪神タイガース一軍監督に就任。2022年監督を退任し、現在は野球解説者/評論家。
左:金子達仁/Tatsuhito Kaneko
1966年神奈川県生まれ。スポーツライター。ノンフィクション作家。1997年、「Number」掲載の「叫び」「断層」でミズノ・スポーツライター賞を受賞。著書『28年目のハーフタイム』(文春文庫)、『決戦前夜』(新潮文庫)、『惨敗―二〇〇二年への序曲―』(幻冬舎文庫)、『泣き虫』(幻冬舎)、『ラスト・ワン』(日本実業出版社)、『プライド』(幻冬舎)他。

もう、阪神にはうんざりなのか?

いずれにせよ、多くの阪神ファンは優勝を逃した矢野に罵声を浴びせ、彼はチームを去った。

もう、阪神にはうんざりだろうか。

「いや、そんなことないですよ」

矢野は笑った。

「優勝できひんかった監督にファンが怒るっていうのは、当たり前のことやと思いますし、そこはもう、全然気にしてません」

2023年シーズンの阪神は、かつて1軍を率いた経験のある和田豊が2軍監督として現場に復帰した。和田もまた、ファンから厳しい声を浴びながらの降板だったが、今回の起用は、概ね好意的に受け止められている印象がある。今回の岡田監督同様、再登板があるのではと見る関係者は少なくない。

主力選手が「楽しもう」と若手に訴え、選手と監督が上下ではなく対等の関係を築いていたWBC日本代表は、矢野が阪神での4年間で作り上げようとしていたものに極めて似通っていた。これから少しずつ、日本人は上下関係を当たり前とするタイプの監督に対するアレルギー反応を高めていくことだろう。

矢野の再登板を望む声が高まる時が、きっとくる。

「もし本当にそういう時が来たら……まずはヘッドコーチやってくれてた一樹(井上)に声かけますね。本当にぼくの意図を酌んでくれる男やし、選手や裏方さんとのコミュニケーション能力も凄いんですよ。一樹はもうイヤやっていうかもしれませんけど、ぼくとしてはもう一生、離れられない」

いまは「すっかり眠れるようになりました」という男は、そう言って明るく笑った。

矢野燿大インタビュー記事はコチラ

TEXT=金子達仁

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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