1972年の設立以来、一貫して日本(福井県・鯖江)製の高品質なアイウェアを生みだし続ける「EYEVAN」。その眼鏡をかけた熱き男たちを写真家・操上和美が撮り下ろす連載「男を起動させる眼鏡」#49。【過去の連載記事】
PERSON 49
劇作家/三谷幸喜
仕事の役回りを意識して眼鏡を選ぶ
中学時代から眼鏡をかけている三谷幸喜さん。しかし極端に視力が悪かったわけではないという。
「眼鏡に憧れがありました。ほら、眼鏡を外したら意外に素敵ね、みたいなシーンが映画とかであるじゃないですか。そういう風に言われたくて眼鏡をかけるようにしたけど、1回もそんなことはなかったな。今は乱視や老眼もあるので、眼鏡は実用品ですし、眼鏡を外した姿を見られるのは、裸で歩いているようで恥ずかしいですね」
眼鏡歴は長くなったが、ファッションなどに合わせて使い分けることはなく、これと決めた眼鏡を使い続ける。
「ちょっと前までは“この年の仕事用眼鏡”を一本選んで、一年を通すこともありました。そうすると写真を見れば、いつのものかがわかるから便利だなって。今も普段用の眼鏡と仕事用の眼鏡を使い分けていて、仕事用には黒いフレームを選ぶことが多いです。仕事の役回りを意識して眼鏡を選びますね」
三谷さんというと、丸形など柔らかなフォルムの眼鏡の印象がある。しかし基本的にこだわりがなく、どういう眼鏡が自分に似合うのかも意識しないそう。
「ただ僕が尊敬している人たち、劇作家のニール・サイモンや映画監督のウディ・アレン、脚本家のビリー・ワイルダーは、皆さん眼鏡をかけてらっしゃるので、そこにご縁を感じることはありますね」
今回三谷さんが選んだのは、アイヴァンのフラッグシップである「E-0505」。1980年代のスタイルを継承したボストン型の眼鏡で、プラスティックのリムにチタン製パーツを組み合わせることで全体の線が細くなり、日本人に似合いやすいサイジングになっている。
保守的な人間なので、眼鏡も冒険はしないという三谷さんだが、“演出”が絡んだら眼鏡だって妥協はしない。自身が受賞した菊池寛賞の授賞式では、衣装や眼鏡で完全コピーして菊池寛に扮装し周囲を驚かせた。自身も演出家で映画監督でもあるので、演者に眼鏡をかけさせることにはこだわりがある。
「たぶん、僕の映画の眼鏡率はかなり高いと思います。特に男性で。そのキャラクターを際立たせたいと考えた時に、女性は割といろんなアイテムがありますが、男性には眼鏡や髭くらいしかない。だから眼鏡をかけて、その役のキャラクターを引きだす。映画『記憶にございません!』でも、首相秘書官役のディーン・フジオカさんには眼鏡をかけてもらった。急にリアリティが出てくるんですよね。逆に主人公の総理大臣を演じた中井喜一さんは眼鏡というイメージじゃなかった。作中のキャラクターを語るうえで眼鏡の有無は、大きなポジションを占めるのかもしれませんね」
そんな三谷さんは、今回選んだ眼鏡をどういったシーンで使うのだろうか。
「これは普段使いの眼鏡ですね。眼鏡には人の印象を左右する効果があり、自分で使う眼鏡もあれば、人に見せるためのパブリックな眼鏡もある。それはすなわち“逆変装”にもなる。印象的な眼鏡の姿を世に見せておけば、シンプルな眼鏡をかけたり、眼鏡をしないで外出したりしても、気づかれないですからね」
眼鏡は身体の一部であり、人に与えるインパクトの強さも知っている。だからこそ知られていない“素顔”を、ひとりの自分として隠し持てる。そういった眼鏡と人間の不思議な関係性を、三谷さんは楽しんでいる。
Koki Mitani
1961年東京都生まれ。日本大学芸術学部卒業。脚本作に、ドラマ『古畑任三郎』シリーズ、大河ドラマ『新選組!』『真田丸』『鎌倉殿の13人』。監督作品に『清須会議』『記憶にございません!』など多数。作・演出の舞台『笑の大学』(PARCO劇場、2023年2月8日~他)が上演予定。近著に『三谷幸喜のありふれた生活17 未曾有の出来事』。
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