2022年1月に、読売演劇大賞優秀女優賞を受賞した倉科カナ。今春からは気鋭の演出家・赤堀雅秋による『蜘蛛巣城』が控える。シェイクスピア4大悲劇『マクベス』を、日本の戦国時代に翻案した同作品は、怪しげな予言に翻弄された武将・鷲津武時と、倉科演じるその妻・浅茅が、欲望と疑心暗鬼の末に破滅するまでを描いた作品だ。
1回逃げると戻るのが大変
「実は昔は舞台がすごく苦手だったんです。以前に出演した舞台で、歌えないのにミュージカルで歌うことになってしまって……私が本当に未熟だったせいですが、舞台って怖い、と思っちゃったんですね。それで、俳優の仕事は映画もドラマもあるし、このまま舞台から逃げて一生出演しないでいることもできるだろうなと。それでマネージャーさんにお願いしたんです。”年に1本、必ず舞台の仕事を入れてほしい”と」
「え?」と、思わず聞き返してしまった。嫌いなものから決して逃げず、嫌いを克服できるまでやる。どうやらそれが倉科カナという女優の性格らしい。
「1回逃げると戻るのが大変じゃないですか。一生逃げ続けるか、数年後にこわごわ出演するかだったら、年に1度舞台に立って好きになったほうが私はすっきりするし、そっちのほうが結局は近道だと。その時も、すぐ次に出演した作品で、一気に舞台が好きになっちゃったんです。自分がやったことのないダンスを踊る場面などもあったんですが、たぶん現場の在り方が私のペースに合っていたんでしょうね」
笑顔の裏には何かある!? 倉科カナ流キャリアメイクとは
デビュー以来、30歳を超えても「かわいい」というイメージは変わらない。だがこの数年は、本作『蜘蛛巣城』の浅茅よろしく、そのイメージを逆手に取るような「悪女」役も多い。その裏にはやはり、倉科の理知的なキャリアメイクがある。
「ほんとおっしゃる通りで、20代の頃からファニーな役が多かったんですね。それで30代になった頃に、『ちょっと会議がしたいです』とマネージャーさんに伝えたんです。その時に、今を時めく女優さんたちのキャラクターやイメージを一覧にして書き出したものを用意して、全員分コピーして渡したんですね。実際の性格とは違っても、パブリックイメージを看板として掲げていると、オファーもされやすいと考えたんです。
それを踏まえたうえで、『じゃあ、私の看板は何だと思います?』っていうことを話し合いました。グラビア出身ゆえの可愛らしさとか女性らしさとか、20代から母親役が多いのは母性みたいなものを求められているからかなとか……じゃあそういう要素はデメリットかというと、そんなことはない、逆に武器とすれば相当強いんじゃないかと。そういう風に分析していったことが、悪女の役が増えていったことにもつながってると思うんですよね。笑顔の裏には何かあると考える人が多いからだと思うし。ちょっと怖いでしょ(笑)」
自称「メモ魔」。考えたことや感じたことはすぐにメモに記し、それによって頭が整理され、様々なことがおのずと見えてくる。明晰な言葉と思考はそこから生まれているのかもしれない。ちなみにもっとも最近のメモには自身が今後目指したいと思っている「成長」について書いていたとか。
「つい最近まで撮影していたドラマ『隣の男はよく食べる』は、すごく素敵なキャストさんスタッフさんに恵まれていて、監督をはじめ若い世代の方が多かったこともあり、新たな刺激を受けました。自分が年齢的に下だったこれまでは、何も言わなくても周囲がわかってくれることが当たり前だったんですね。でも今回は、自分がどう思っているか、どうしてほしいかなどを言葉で明確に伝えるほうが、撮影がより円滑に進むなと思ったんです。そういうことってちょっと面倒なことでもあるし、流してしまうこともできるんですが、今後もこの仕事を続けていくならきちんと実践していくべきだと」
倉科カナは、ここでもやっぱり逃げない人なのだった。
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『蜘蛛巣城』
日程:2023年2月25日(土)~3月12日(日)
会場:KAAT神奈川芸術劇場 <ホール>
以降、全国ツアーあり
主催・企画制作:KAAT神奈川芸術劇場
出演:早乙女太一、倉科カナほか
神奈川公演に関するお問合せ:
チケットかながわ TEL:0570-015-415(10:00〜18:00)
https://www.kaat.jp