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2022.10.16

【アラン・デュカス】フレンチの帝王が語る、これからの食が進むべき方向性

フランス料理界の巨匠、アラン・デュカス氏が3年ぶりに来日。自身が監修するパレスホテル東京のフランス料理「エステール」で、食の未来、日本への想いについて熱く語った。

デュカス1

時代がやっと巨匠に追いついた

日本でいくつものプロジェクトに関わっているアラン・デュカス氏。パレスホテル東京の6階にある「エステール」は、「デュカス・パリ」をパートナーに迎えて2019年11月にオープンしたレストランだ。名前はデュカス氏の故郷である南仏オクシタニー地方で「母なる大地」を意味する言葉からとられた。

「レストランは自らのストーリーを語るべき場所だと考えています。私は自然を愛し、海や大地、つまり地球が育む貴重な資源をリスペクトしていますから、そういうことをこのレストラン『エステール』の空間、料理、サービスからお客様に意識していただけたら本望です」

エステール1

「軽くスモークした長崎産の鯖 茸のフェルメンテーション」。秋鯖と、茸など日本の秋を味わう前菜。茸を使ったコンソメを卓上で注ぐ演出もユニーク。

都心にありながらも皇居外苑と丸の内通りの豊かな緑を借景にできる贅沢な眺望、和紙など自然由来の素材にこだわり、アーストーンでまとめられた空間からしてデュカス氏が大切にしている「自然との調和」を物語っている。

「日本の食文化のみならず、歴史、伝統も深く愛し、リスペクトしています」

そうデュカス氏が言うように、「エステール」をはじめ、日本で展開しているレストランでは、日本のテロワール、食文化が育む山、海の旬の幸を活かした地産地消のフレンチを目指している。

「エステール」の料理を任されているマルタン・ピタルク・パロマー氏は、パリ、ロンドンにあるデュカス氏の3つ星レストランで腕を磨いてきたシェフ。「日本は世界でも群を抜く食材の宝庫。とても挑戦しがいのある場所」と語り、日本のテロワールと旬を活かし、素材の本質に迫る技術で「美味しい」の先にある物語──つまり自然環境や生産者、料理人などさまざまな繋がりのお陰で享受できる幸せに気づかせてくれる。

エステール2

「北海道産の帆立貝 海藻とブロッコリー」。旬を迎え、大きく育った北海道産の帆立をゆっくりロースト。つぼみも葉も余すことなく使ったブロッコリー、ひまわりの種、1日かけて乾燥させた帆立の肝を合わせたソースで。

オーセンティックなビストロから格調高い3つ星レストランまで、世界10ヵ国で30以上のレストランを指揮しているデュカス氏。料理人としてだけでなく、レストランクリエイター、ホテルのオーナーなど自社の事業以外にも、「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク」の発起人をはじめ、フランスの食文化の啓蒙のためにも尽力するなど活躍の幅はとてつもなく広く深い。

特に「自然派」的立ち位置で、自然への敬意、生産者への感謝を忘れないという料理人としての大切な心構えを説き、さらに現在のようにSDGsが周知されるようになるずっと以前から「食材の無駄を出さないという意識を持つことが大切」と著書やインタビューなどでも言い続けてきた。

まさに、やっと時代がSDGsの先駆者、デュカス氏に追いついてきたのだ。

これから「レストラン」は、「食」はどういった方向へ進むべきなのか。デュカス氏は言う。

「食べる前に使われている食材の由来や品質、そして栄養、分量などが適切なものかを思考することがますます大切になってくるでしょう。地球に優しいものなのか、自分にとって適切な食材なのか、栄養が偏っていないか、脂質を摂り過ぎていないかなど、生産者、料理をする人、食べる人すべての人が意識を持って選ばなくてはいけません。

2011年、私はジョエル・ロブション(故人)やギ・サヴォアをはじめ、同じ志、価値観を持つ14人の名だたるシェフたちをメンバーに誘って『コレージュ・キュリネール・ド・フランス』を立ち上げました。それは食文化を守り、発展させていく独立した組織です。政府主導ではなく、料理人、農家や漁業の生産者が上下関係なく対等な立場で集うコミュニティで、会費制で運営しています。志が同じならば誰でも会員になることができ、生産物の取引きができるのです。とはいえ加盟すれば守ってもらえる協会ではなく、契約農家ということでもなく、個々が独立していることが重要です。たった1品目しか作っていない生産者でも、テロワールを大切にしたエコロジーな作物を自信を持って提供できるのであれば、3つ星シェフと同じ立場にたって取引きができます」

デュカス2

Alain Ducasse
1956年フランス南西部ランド県生まれ。モナコ、パリ、ロンドンの3つ星をはじめ、世界中で30以上のレストランを展開。獲得した星の数は20以上になる。チョコレートブランド「ル・ショコラ・アラン・デュカス」も手がける。

「コレージュ・キュリネール・ド・フランス」の会員は、この10年で3000人になったという。

「我ながら素晴らしいネットワークを構築できたと実感しています。そして、このコミュニティを日本でも展開したいと、実は今年、日本人のシェフたちに声をかけ『コレージュ・キュリネール日本』を立ち上げました。なぜならフランスと日本は似ているからです。ここからきっと壮大な食のムーブメントが始まると期待しています」

伝統を守りつつ、常に進化の歩みを止めない、これぞスターシェフの真骨頂だ。デュカス氏は最後にとっておきの情報を教えてくれた。

「来年の春か夏には、今までのジェラートとは一線を画す、サプライズに満ちたフレーバーを揃えたお店を日本にオープンさせます。日本の食材を使いながらも今まで体験したことのない味になるはずですよ。楽しみにしてください」

エステール3

ESTERRE
住所:東京都千代田区丸の内1-1-1 パレスホテル東京6F
TEL:03-3211-5317
営業時間:11:30〜L.O.13:30、18:00〜L.O.20:00
席数:60席、個室3室
料金:ランチコース¥10,000~、ディナー¥20,000~(税込み、サ別)

TEXT=藤田実子

PHOTOGRAPH=太田隆生

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