Instagramで起業し、D2Cブランド事業を中心に成長。2020年にはZOZOとの提携を結ぶなど、ファッション業界の新たな波を生み出したyutoriの片石貴展さんが語るビジネス論とは。連載「起業家の星」とは……
「いつかは自分の会社を」夢じゃなく現実として考えていた
服が売れない。そう言われて久しい今日この頃だが、そんな中でも右肩上がりの成長を続けるアパレル会社がある。それが、2018年に片石貴展さんが創業したyutoriだ。
大学時代には音楽を通じてアーティスト活動を行なっていたという片石さん。その後、スマホゲームアプリ開発会社を経て、24歳の時にInstagramを活用した古着コミュニティ「古着女子」を立ち上げた。広告を利用せず、古着を使ったコーディネートを見せることに特化することで、純粋に古着ファッションを楽しみたい若い世代から絶大な人気を獲得。いわゆる「インスタ0円起業」に成功した。
「まぁ、単純に資金がなかっただけなんですけどね。そもそもは、自分が好きなことを好きな人とやりたいという想いからはじめたこと。その頃は、自分の目が行き届く範囲でビジネスになればいいと思っていました。でも、規模が大きくなるうちに、次第にその先を見たくなってきました」
そんな片石さんは、資金調達をして「yutori」を法人化。その後、ファッション通販EC「ZOZOTOWN」などを運営する「ZOZO」と資本業務提携を締結した。
「社名の由来は、僕が周囲の人にゆとり君と呼ばれているから(笑)。その呼び方、嫌いじゃないんですよね。世の中や上の世代に迎合することなく、そして既成概念に縛られることなく、それぞれの“好き”を自由に楽しんだらいいと思っているので」
当初とは違い、大きな未来を描くようになってきたという片石さん。そのために今、自身は“経営”に徹しているとか。
「僕はクリエイターではないんです。あくまで、才能を持っている人がそれを発揮できる環境を作るのが仕事。つまり、経営者に徹しています。ファッション業界は、ともすれば経営においてもデザイナーやディレクターがその才能とセンスで引っ張るカリスマ商売という形が多かったと思います」
取材時のコーディネートも然り、その飄々とした喋り方は、確かにゆとり世代を想起させる。しかし、それはあくまでも自分らしさを突き詰めた結果だ。
「ファッションに目覚めたのは高校生の時。原宿のとんちゃん通りにある古着屋に入り浸っていました。その時期から、将来はファッション関連の仕事で起業しようと考えていました」
父親が会社を経営していることもあり、起業に対しては子どもの頃から興味を持っていた。従業員に慕われる姿を見て、一国一城の主になることの魅力を感じ取っていた。
「ただ、父からはずっと『会社なんて興すもんじゃない』と言われてきましたけどね。やっぱり日々大変ですから。そう教育されたおかげで、起業に対して現実的に考えられるようになっていきました」
上からじゃなく同じ目線で、ユーザーといかに距離を縮めるか
夢中になり過ぎると、盲目的になってしまうことも確かにある。そうならないために、内側からではなく常に外側からファッション業界を見ているという。インスタグラムやTikTokといったSNSから情報収集、そして発信の場にしているのも、そのためだ。
「今、手が届かないことへの憧れより、身近で楽しめることが求められている時代だと思っています。ファッションにおいても、これまでは雑誌やテレビなどの媒体を介さないと知ることができなかった情報が、今ではSNSを通じてダイレクトに知ることができます。トレンドも、もはやユーザーが自分たちで作り出しているという意識を持っているんです。それを感覚的に理解できているかどうかが、今後のファッションビジネスにおいては重要ではないでしょうか」
とはいえ、新しいトレンドを生み出すのではなく、90年代ストリートのリバイバル然り、昔懐かしい時代のファッションやカルチャーに夢中になっている若者も多い。しかし、片石さんによれば当時のアンダーグラウンドな、またはインディペンデントなムーブメントは、今の時代を生きる若者と親和性が高い側面があるという。
「当時は、大人たちからの押し付けを、若者による主張が跳ね返した時代だと思います。ある程度雑誌やテレビのバイアスはかかってはいたと思いますが、若者自身がトレンドやシーンを作っていった感覚は、今の時代と近いものがあったと思います。今の若者は、そんな当時の空気感を感じ取っているのではないでしょうか」
若い世代だからこそ生まれる、熱気や熱狂がある。なので、常に新陳代謝を行う必要があると、片石さんは考える。そしてその考えは、D2C(Direct to Consumer)で運営するオリジナルブランドの展開の仕方に現れる。
「ひとつのブランドを大きくしてゆくのではなく、コンパクトなサイズのブランドをいくつも展開しています。その方が変化に柔軟に対応しやすいし、ユーザーの選択肢も多くなります。D2Cならではのスピード感という利点も、より発揮できますから。そもそも、ファッションは自由。色んなスタイルがあっていいんです」
トレンドはありつつも、細分化され、よりニッチなアイテムが売れることも多い昨今。そんな中で、yutoriで展開するアイテムが、大きなうねりを生み出すこともあるという。
「2021年に『9090』というブランドから出したバルーンパンツは、すごく売れました。その後、様々な他社からも後発で出てきましたから。真似されることは損失といえば損失ですが、その流れを作り出したことは喜ばしいことだと割り切っています。それに変化が早い時代では、他社が真似した時点でもはや古くなっていますし」
そんな片石さんは、来年30歳を迎える。起業から5年。2021年は年商17億を達成するなど、その勢いは留まらない。しかし、ことアパレル会社としては、既に過渡期を迎えているという。
「これまでの成功体験にしがみついていては、それこそ従来のアパレル会社と同じです。年商は確かに着実に増えていますが、だからこそ新たな種を蒔くタイミング。次なる目標としては、海外進出を考えています。幸い、日本においては自分が先陣切ってコントロールする必要がない体制が整いました。今こそ、ドラスティックに変化を求めるチャンスです」
狙うは韓国。彼らのK-POPカルチャーはもはや全米をも席巻し、日本の若者世代にとって今一番関心があり、影響を受けている国だ。いわば逆輸入的な立ち位置となる。「具体的なプランはまだ未定」とのことだが、その実現のために片石さんは着実に駒を進めているようだ。
片石貴展さんの素顔が垣間見える一問一答!
Q1 朝ご飯は食べる派?
作ってもらったら食べます。
Q2 朝のルーティンは?
猫に起こされる。
Q3 食事で気をつけていることは?
糖質を取りすぎない!
Q4 移動時間や隙間時間は何をしますか?
TikTokやInstagramなどのSNSをチェック。
Q5 今、何が食べたいですか?
ラーメン
Q6 好きな本は何ですか?
『ザ・シークレット』
Q7 好きな映画は何ですか?
『インスタント沼』と『海が聞こえる』。
Q8 好きなYouTuberは?
アレン様しかみていません。
Q9 1日で一番好きな時間帯はいつですか?
特になし! みんなといる時間ならいつでも。
Q10 1日の終わりにすることは?
パートナーと猫と、家でゆっくり過す。
Q11 1週間休みがあったら何をしたいですか?
旅行! 海の見えるところに行きたい。
Q12 自己投資するなら何をしたいですか?
最近(運転)免許を取りました!
Q13 何か運動はしていますか?
バスケ! 部員募集中です!
Q14 最近行った場所で素敵だったところは?
伊豆にあるオーベルジュ「arcana izu」。
Q15 睡眠時間はどのくらい?
8時間は死守します!
Q16 仕事以外で挑戦してみたいことは?
挑戦とはちょっと別ですがアートを勉強中です。
Q17 旅行に行く際の必需品は?
充電器とかコンタクトとか。
Q18 もう一度訪れたい場所はどこ?
ハワイ
Q19 私こう見えて○○なんです
海が好き。
Q20 今ハマっていることは?
免許取ったのでドライブw
Q21 両親の教育方針で感謝していることは?
自由に色々できて、一番のファンでいてくれたこと。
Q22 これがないと生きていけないというものは?
猫
Q23 精神的に強くなるために意識していることは?
人に頼りまくる。
Q24 苦手なことは?
一人の時間、一人が嫌です。
Q25 逆に得意なことは?
人と何かをすること、人の才能を引き出すこと。
■大切なのは熱量を理解する肌感覚。yutori片石貴展のマンネリに陥らない経営のコツ
連載「起業家の星」とは……
志を高く持ち、夢を語り、世界に一石を投じるのは、いつの時代も若手の起業家たちだ。本連載では、未来を形づくるその仕事に迫り、明るい社会を期待せずにはいられない起業家の想いに光を当てる。