YouTubeチャンネル「かじがや電器店」(チャンネル登録者数:約58.9万人)で、iPhoneの裏ワザや最新家電の選び方を紹介するかじがや卓哉氏に、YouTubeという仕事とその役割にどう向き合い、何を目指しているのかを教えてもらった。【特集 仕事に効くYouTube】※チャンネル登録者数は2022年9月現在
税理士、芸人、YouTuber、そのどれもが自分を表現する力に
数々のTV番組に出演する芸人でありながら、家電量販店の勤務経験を持ち、iPhone関連の著書も多数出版、さらに現役の税理士でもある、かじがや卓哉氏。そんな彼は、高校生の時に、年収3千万稼げると本で読み税理士を目指しはじめたという。
「ただ、その金額は新人税理士ではなく、開業して10年以上経っている人の年収だったということは、あとで知るんですが(笑)」
国家資格の中でも、税理士試験は必要な試験5科目をすべてクリアしなければならず、合格率は2%とも言われる超難関資格。かじがや氏も高校卒業後、生活のほとんどの時間を勉強に費やしたという。
「睡眠時間は3時間、友達と会って遊ぶ時間などまったくなかったですね。それでも続けられたのは、合格後の人生は確実に開けると信じていたこと。経済活動を行ううえで絶対に必要な業務なのに、試験が難しいこともあって税理士の分母は少ない。合格すれば仕事のチャンスは必ずあると思ったんです」
模試では全国1位を取る結果も出し、約7年をかけすべての試験をクリア。25歳の時に無事、税理士の資格を取得した。その年は5万人の受験者に対し、25歳以下の合格者はわずか52人だったそうだ。
そのまま行けば順風満帆な税理士人生だが、試験が残り1科目だけとなり、資格取得が見えてきた頃のこと。誘いを断り続けたおかげで友達もいなくなり、日々の生活があまりにも面白くないことに気がついたかじがや氏は、吉本の養成機関であるNSCに入学。なんと税理士とはまったく逆の、"先が見えない"芸人の道へと進む。
「以前からお笑いが好きだったんです。当時は24歳。このあと自分の人生の方向性がどうなろうと、まだまだ修正が効く。ならばやってみたかったお笑いにチャレンジしてみたいと思ったんです。税理士の仕事を捨てたわけではないですし、逆にこんな資格を持っていることが、芸人のキャラクターとして強みになるとも思いました」
そんなかじがや氏がYouTubeを始めたのは、約6年前。きっかけはiPhoneだった。実は高校時代から、携帯は毎年必ず機種変更するほどのガジェット好き。
「だからiPhoneが出たときは、手のひらにあるこの小さな1台で、あらゆることができるんだと本当に感動しました」
日本に上陸してまもなくのiPhone3Gの時代から使いこなし、その後も新機種が出るたびに発売日に並んで必ず購入。そのため芸人の間では、「iPhoneのことは、かじがやに聞け」という状態に。
「芸人や友達から来る相談は年間約1000件。話を聞く中で、iPhone好きの僕にとっては当たり前のことでも、みんなにとっては知らなかったり、気づいていないことがたくさんあるんだと実感したんです」
そこで、便利な機能や使いやすくする裏ワザなどをYouTubeにアップ。手の届く範囲に伝えていただけの自分の知識が、一気に世界に発信するコンテンツになったのだ。
伝えたいのは共感と、自分が本当に納得するものだけ
かじがや氏が動画を作成するうえで、必ず守っているポリシーがある。それが「商品の良い部分にフォーカスする」ということだ。
「悪いことを発信する方が、実は簡単。商品の良いところを見つけて、上手に伝える方が難しい。商品の弱点をこき下ろしたりした方が、正直再生数も伸びるんです。でも僕はそれはあんまりしたくない。それよりも、本当にいいものなのに、その良さがちゃんと伝わってない商品がたくさんあります。その気づかれていない良さを、みんなに伝えたいんですよね」
さらに心を配るのは「はじめて情報に触れる人でもわかりやすく、理解してくれるような説明をする」こと。そこには家電量販店での勤務経験も役立っている。
「お客様と話していると、そもそも商品のことをあまり知らず、買いに来ている方が結構多いんです。だから、機能の違いもわからず判断ができなくなってしまう。YouTubeでも、まずは商品や機能を理解してもらうために特徴は何か、どこを見れば違いがわかるかなど丁寧に伝えるようにしています。もちろん専門用語もできるだけ使わず、使うとしてもiPhoneなら『画面のフチのことをベゼルって言うんですが…』などと必ず補足をして説明します」
的確な説明や紹介をするためには、情報収集も欠かせない。商品は自分で使って確かめ、家電量販店にも頻繁に足を運びチェック。下調べには納得いくまで時間をかける。
「間違った情報は伝えたくない。適当な情報と言われないよう、こんなデータがあるとか、しっかり裏を取った正確な情報を発信するようにしています」
だから動画の台本もきっちり作り込んで撮影に臨む。
「入れるべき情報が漏れたり、誤解が生じないよう、撮影よりも台本に一番時間をかけています。僕の動画は『台本ができた時点で、もう9割は出来上がっている』と言ってもいいと思います(笑)」
ほんの10分の動画であっても、その裏には膨大な情報収集と練り上げられたストーリーがある。どれだけ時間と手間がかかったとしても、かじがや氏の動画は綿密な下準備なしには完成しない。
「確かに大変ですが、自分自身がやりたくてやっていること。税理士の勉強の時も、どんなに辛くてもこの勉強はやらされているわけではなく、あくまでも自分がやりたいことなんだというマインドシフトができてからは、すごく楽になりました。その経験があったからこそ、今の仕事のどんな局面でも、受け身にならず自分から進んで行けるんだと思います」
そして、かじがや氏が目指すのは、観ている人にも共感してもらえる動画にすることだ。
「やり方や機能を紹介するといっても、僕の動画は講師が教えるような一方通行のものではありません。僕自身が得た驚きや感動がちゃんと伝わり、共感してもらえるものにしたい。だからこそ、まずは自分がその製品をとことん知りつくし、単なる商品紹介にとどまらず、自分自身が本当に使えると納得するものだけを、その熱量を届けるがごとく伝えていきたいと思います」