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2022.08.08

デザイナー森田恭通が世界で仕事をする足がかりとなった場所

2022年7月1日は香港返還25周年。自身の第二の故郷ともいえる香港の地に思いを馳せたという森田恭通氏。少しずつ海外に行く機会も増えたが、旅を通じて得られるものは貴重だと話す。デザイナー森田恭通連載「経営とは美の集積である」Vol.28。【過去の連載記事】

ハワイのローカル食堂「SHOKUDO JAPANESE」

森田氏がデザインしたハワイのローカル食堂「SHOKUDO JAPANESE」。グラフィックデザインは実業家・稲本健一氏が手がけた。

誰しも、そこに立つだけで胸が熱くなる場所がある

ゲーテが3年ぶりにハワイ特集を組まれていて、秋にハワイ行きを予定している僕としては、美味しいお店情報を新たに仕入れることができ、嬉しい限りです。

神戸っ子の僕と淡路島出身の妻は、海の見える景色が好き。でもなぜか僕はハワイが似合わないと言われています。確かに結婚してから何度かハワイを訪れていますが、振り返るとビーチの思い出よりも、アラモアナショッピングセンターかカラカウア通り沿いのシャネルのお店で妻の買い物に付き合っていた記憶のほうが多いような気がします。そこの窓から見えるビルとビルの隙間の先の5㎝くらいの海がハワイの海の思い出なんてことも(笑)。

それでもハワイに行くと、朝から海を眺めてぼーっとしていても怒られないし、乾いた空気が何よりも気持ちいい。日本ではなかなか行けないようなローカルな食堂も楽しみます。ふたりで必ず食べに行くのは、シャリシャリに凍ったスープがおいしいユッチャン冷麺。その近くには僕が2005年にデザインした、地元のお客さんにも人気の「SHOKUDO JAPANESE」もあります。オーナーは代われど、今も地元の人で賑わっていると聞くのは、とても嬉しいものです。僕のハワイ好きの友人は久しぶりにハワイに行き、あまりの嬉しさに、涙がこみ上げてきたそうです。

そんな具合にその地に立つだけで、さまざまな思いがよぎり、ぐっと胸が詰まる場所があります。僕の場合は世界で仕事をする足がかりとなった香港がそうです。街の匂いやまとわりつくような熱気を体感するだけで、胸がぎゅっと切なくなります。最初に訪れた頃はイギリス領だったので、今よりイギリスの雰囲気が色濃く残っていました。西洋から見た東洋、いわゆるシノワズリの世界に引きこまれたのも香港でした。いろいろな人と出会い、さまざまな体験をしました。

特に思い出深い場所と聞かれると、それはグランド ハイアット 香港。W香港の仕事をしている時、常に滞在していたホテルで、とくに「シャンパンバー」は毎晩訪れた思い出深い場所です。このホテルから九龍サイド側の夜景を眺めては1日の終わりを感じていたものです。香港は常にエネルギッシュで、いつもここには僕を受け入れてくれる器がある。いわば森田を育ててくれた場所です。

2021年に香港の西九龍文化地区にM+(エムプラス)という現代美術館がオープンしました。次に香港へ行く時は、まずここに行ってみたい。デザイナーの倉俣史朗さんがインテリアデザインをしたお寿司屋さんが丸ごと展示されていたりと、独特のキュレーションらしく、とても楽しみにしています。

少しずつ出張が増え、海外に行く機会も増えてきたように思います。せっかく出張に行くのであれば自分の糧にしたいと思える場所。例えば、訪れた街の美術館やギャラリーにも足を運ぶと、その地の文化を学べます。昨今の世界情勢に加え、円安や物価高、航空運賃の高騰など懸念されることも多々ありますが、旅は貴重な機会。旅を通じて得られるものもあるからこそ、必ずそこで何かを摑んできたいですね。

過去連載記事

Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍し、2019年オープンの「東急プラザ渋谷」の商環境デザインを手がける。その傍ら、’15年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」はこちら。

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連載
森田恭通/経営とは美の集積である。

デザイナーとして、多くの経営者の経営展望や理念、彼らの求める機能やニーズに応えてきた森田恭通氏。そのなかに見えたのは、経営者こそが持つ、オリジナリティ溢れるセンスと美学だという。「経営」と「美」の関係性、その先にあるものとは。

TEXT=今井 恵

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