PERSON

2022.07.22

三好康児にとって、板倉滉、三笘薫、田中碧という存在

三好康児柴崎岳武藤嘉紀中島翔哉……。己の成長、その先にある目標を目指して挑戦し続けるフットボーラーたちに独占インタビュー。さらなる飛躍を誰もが期待してしまう彼らの思考に迫る。三好康児3回目。

いい意味でサッカーを家庭に持ち込まない

川崎フロンターレからベルギーのロイヤル・アントワープFCに移籍して3年。三好康児の身の回りに起きた大きな変化は、家庭を持ったことだ。

かねてから付き合っていた女性と2020年末に入籍したのである。

一緒に過ごす時間が楽しく、異国での生活を支えてもらっているという三好だが、結婚生活において自分の中で決めているルールがある。

「いい意味でサッカーを家庭に持ち込まないようにしています。だから、試合が終わって家に帰ってきても、サッカーの話はいっさいしない。それは別にサッカーのことを考えたくないとかではなく、妻は一般人でサッカーの知識があるわけではないので。妻も僕のプレーは見てくれていますけど、何か言ってくることはないですね」

とはいえ、一方的に話すだけでも、頭の中でぼんやりとしていたサッカーに関する思考が、整理されていく面もあるのではないか。

「もちろん、しゃべってすっきりする部分もあると思いますけど、言葉に出すとグチを言ったり、不満を漏らしたり、そうした感情に流されてしまうことがある。それが嫌なので。だから、サッカーに関してはひとりのときに考えるようにしています」

ネガティブな言葉を口にしないというのは、子どもの頃から他人ではなく、自分に矢印を向けてきた三好らしいポリシーだ。加えて最近、一流選手が同じようなスタンスだということを知り、「ああ、やっぱり、間違っていなかった」と納得した。

長谷部誠の『心を整える。』を約10年ぶりに読んで

さまざまな交流があった日本とは異なり、ヨーロッパで生活していると時間を持て余す。ヨーロッパのサッカーだけでなく、「Jリーグもかなり見ている」という三好にも、新たな趣味が加わった。

「本を読むようにしていて。読書好きというほどではないので、そう書かないでほしいんですけど(苦笑)。周りの人たちがどういう考えを持っているのか、気になるようになってきて」

こうしてページを繰った何冊もの本のなかに、長谷部誠の『心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣』(幻冬舎)もあった。当時の日本代表キャプテンが実践してきたメンタル術をまとめたもので、初版の刊行は2011年だったから、今から11年前のことになる。

当時、中学生だった三好も読破したひとりだが、約10年ぶりに手に取ると、その印象は大きく変わっていた。

「当時はいちサッカー少年として読んだので、『プロって、こういう世界なんだ』という感想しかなかったんですけど、自分もプロになって、こうしてヨーロッパでプレーするようになって、共感できる部分がすごくありましたね」

そのひとつが、マイナス発言はしない、という信条だった。

「長いシーズンを戦えば、いい時期だけじゃなく悪い時期もあって、それが周りへの不満につながるときもある。それを思うのはしょうがないし、誰もが通る道だと思いますけど、『あいつ、全然俺のこと使わねえよ』って口にしちゃうと、監督のせいにして終わってしまう。そこで、自分に何が足りないんだろうって考える。あと何年サッカーができるか分からないのに、そこで文句を言っていてももったいない――そういったことが長谷部さんの本に書いてあったんですけど、まさにその通りだなと」

21-22シーズンの三好にも、負傷離脱から戻ってきたものの出番を得られない状況に、不満を抱えた時期があった。しかし、矢印を自分に向け続けた結果、シーズンの最後にポジションを奪い返すことができた。

「25歳になって、もう若くないですし、やれてあと10年くらい。その10年をどうアレンジしていくか。後悔のないサッカー人生をつくっていきたいと思っています」

ヨーロッパのサッカーシーンを生き抜き、さらに上のステージを目指すうえで、ドイツに渡って14年半、38歳となった今なお現役を続ける長谷部の考えほど、参考になるものはないだろう。

板倉滉、三笘薫、田中碧というライバル

一方で、ともに欧州で戦う同世代の仲間からも刺激を受けている。川崎フロンターレU-12時代からのチームメイトで、同級生の板倉滉(シャルケ04→ボルシア・メンヘングラードバッハ)、1学年下の三笘薫(ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ→ブライトン)、2学年下の田中碧(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)である。

「薫とはお互いの家が30分くらいの距離だし、滉と碧もデュッセルに住んでいるので、そんなに遠くない。2時間もあればみんなで集まれるし、妻と一緒に薫や滉の家に食事に行ったことも何度かあります。サッカーの話もするし、他愛のない話もしますよ」

気を使わずに話せる仲間がいることは、異国での挑戦の日々に活力を与えてくれる。

「薫と碧はサプリメントの知識が豊富だし、薫は管理栄養士を付けているので、食事に関しても詳しいから、『いろいろ教えてよ』って。僕からも教えてあげたりして、協力し合ったり。でも、彼らが活躍する姿を見ると悔しいし、『負けてらんねえな』って思わせてもらえるので、面白い関係性ですよね」

小学生の頃から同じボールを蹴り合った仲。高校卒業後は三笘が大学に進学し、三好と板倉が期限付き移籍をしたのちにひと足早くヨーロッパに旅立ったから、Jリーグで4人が同時にピッチに立ったことはない。

しかし、昨年は4人揃って日の丸を背負い、東京オリンピックに出場した。同じ夢を追い続けてきた同士であり、ライバルでもある彼らの存在が、“サッカー人生最大の目標”へと三好を駆り立てる。

TEXT=飯尾篤史

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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