毎度お騒がせしております。キングコング西野です。(こちらは、オンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』に投稿した記事を加筆修正したものです)
【連載「革命のファンファーレ2~現代の労働と報酬」】
今日は『ハイスペックたれ 〜名前をつけて、自分が置かれている状態を正確に把握しよう〜』というテーマでお話ししたいと思います。
オンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』の"法人会員"のお申し込みも増え、世の若手社員さんもサロン記事を読まれる機会が増えたので、空中戦な話ではなく、ビジネスの「基本のキ」について、お話しします。
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第50回 「過剰性能」のために技術の向上に努めるのは、二流のクリエイターと二流のサービス提供者
今、サービスの現場で起きていること
まずは、「今、サービスの現場で起きていること」を、あらためて整理しておきたいと思います。
情報が簡単に共有されるようになり、それにより「技術」が皆のものとなり、「どのラーメン屋さんもまぁまぁ美味しいし、どの電気屋さんもまぁまぁ同じ値段」という世界になりました。
まずいラーメン屋さんや、ボッタクリ電気屋さんは、いなくなったわけですね。
意識高い系(カタカナを無駄に使う系)の僕なんかは、この状態を「クオリティーのコモディティ化」と呼んだりしています。
※コモディティ化=製品やサービスについて、性能・品質・ブランド力などに大差がなくなり、顧客からみて「どの会社の製品やサービスも似たようなもの」に見えるようになった状況。(@Wikipedia先生)
「値段」や「性能」といった【機能】で商品やサービスを選べなくなった僕らは、ならば、どうやって商品やサービスを選ぶようになるのか?
この問題に名乗りを挙げたのが『人』で、「他よりも20円高くても、応援している田中さんの店で買う」という『人』を軸にして商品やサービスを選ぶ「人検索」の時代が始まりました。
他にも「どうせ同じ値段で同じサービスなら、環境問題と真面目に向き合っているA社から買う」という「理念検索」もあるでしょう。
そんな時代に入ったもんだから、コミュニティーに所属していることは超絶大切だし(※実際、「サロンメンバーさんの店に行く」は全国各地で起きている)、会社の物語(理念)を発信することは超絶大切です。
なので、「人検索の時代だから人と繋がっておこー!」となるのは大いに結構ですが、ただ、それは「全員のクオリティーが上がって、値段や性能といった【機能】で商品やサービスを選べなくなった」が大大大前提で、『まずいラーメン屋さん』は「人検索」の時代であろうがシンプルに選ばれません。
「一定レベルをクリアしている」が「人検索ゲーム」のドレスコード(参加資格)です。
#ここはウヤムヤにしちゃダメ絶対
時々、「僕の絵はどうやったら売れますかね? 飲み会とかに参加して、ドブ板営業をやった方がいいんですかね?」というイラストレーターさんから相談を受けることがありますが、「…いや、その前に、シンプルに絵が下手だから、もっと練習した方がいいよ」と返すことがあります。
#血も涙もない
これは「人検索」という言葉が生み出した勘違い(絶望的な希望的観測)で、「クオリティーがコモディティ化した現代でも、ウンコ(低クオリティー商品)を生み出す人は普通に存在する」ということを把握し、自分(自社)がそれに該当していないか? を自問自答することが大切です。
前置きが長くなりましたが、ここから本題です。
ハイスペックたれ
「クオリティー」の件で、全てのサービス提供者が仕入れておかなければいけない『言葉』があります。
「過剰性能」という言葉がありましたが、今日はこの言葉の周辺を深掘りしたいと思います。
Wikipedia先生曰く、「過剰性能」とは、利用者が求めるよりも、更に高く持っている性能と、その性能を持つ機械装置の総称です。
「過剰」という言葉が指し示すとおり利用者にとっては不要なものであり、時として邪魔となる場合もあります。
いわゆる「宝の持ち腐れ」ですね。
「…いやいや、何かが不足しているならまだしも、利用者が求めている以上のものを搭載しているんだったら、いいんじゃないの?」と思う人もいらっしゃるかもしれませんが、利用者が求めている以上のものを搭載する為にかけるコストが絶望的に無駄です。
日本の携帯電話業界の末路がまさにこれで、当時は「他社よりも2グラム軽い!!」みたいな競争をしたりしていました。
当時の利用者は携帯電話に5gぐらいの「ストラップ」をジャラジャラ付けていたので、軽量化に努めたエンジニアさんの努力は全くもって無駄です。
そうこうしているうちに、そこそこ重いiPhoneがやってきて、全員を丸飲みしていきました。
お客さんの求めているレベルが「80」だとして、サービス開始時の自分のレベルが「0」だった場合、技術の向上は、そのままお客さんの満足度に繋がります。
それを繰り返しているうちに「技術を上げる=喜ばれる」という誤った計算式が自分の中で出来上がってしまい、「80」を超えても尚、技術の向上に努めるのが二流のクリエイター(二流のサービス提供者)と、業界を殺すコアファンです。
さて。
今日の記事は、「クオリティーを上げなきゃ意味がない」と言ったり、「クオリティーを上げすぎたらダメだよ」と言ったり、ちょっとよく分かりません。
「どっちなの?」と混乱されている方もいらっしゃるかもしれません。
このあたりの塩梅をチームの皆に共有するのって、とっても難しいんです。
そんな時に「名前」がとっても役に立ちます。
「過剰性能」は和製英語で『オーバースペック』と呼びます。
お客さんが扱いきれない(認識できない)スペックの開発はまったくもって無駄です。
大切なのは、お客さんが扱いきれる(認識できる)範囲内での最上級のスペックの開発で、これを『ハイスペック』と呼びます。
『オーバースペック』と『ハイスペック』は似て非なるもので、商品やサービスを開発する時には…
「オーバースペックになっていないか?」「ちゃんとハイスペックを目指せているか?」
…を、チームの皆と常に話し合うことが大切です。
それもこれも、「状態」に名前がついていないことには(名前の定義を共有していないことには)、その議論も始まらないので、会社の壁に
「ロースペックはウンコ。
オーバースペックもウンコ。
ハイスペックはカレー」
という貼り紙をしておくといいと思います。
現場からは以上です。
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西野亮廣/Akihiro Nishino
1980年生まれ。芸人・絵本作家。モノクロのペン1本で描いた絵本に『Dr.インクの星空キネマ』『ジップ&キャンディ ロボットたちのクリスマス』『オルゴールワールド』。完全分業制によるオールカラーの絵本に『えんとつ町のプペル』『ほんやのポンチョ』『チックタック~約束の時計台~』。小説に『グッド・コマーシャル』。ビジネス書に『魔法のコンパス』『革命のファンファーレ』『新世界』。共著として『バカとつき合うな』。製作総指揮を務めた「映画 えんとつ町のプペル」は、映画デビュー作にして動員170万人、興行収入24億円突破、第44回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞受賞という異例の快挙を果たす。そのほか「アヌシー国際アニメーション映画祭2021」の長編映画コンペティション部門にノミネート、ロッテルダム国際映画祭クロージング作品として上映決定、第24回上海国際映画祭インターナショナル・パノラマ部門へ正式招待されるなど、海外でも注目を集めている。
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