時計をデザインする時に、改めて時間を意識したという森田恭通氏。人生、仕事について語りながら、その終わり方についても考えるようになった。誰にも等しく公平な「時」をどう使うかは自分しだい。デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である」Vol.27。
タイムマネジメントは重要な能力のひとつ
2008年に、オーデマ・ピゲのMILLENARY LIMITED EDITION by MORITAという時計をデザインする機会に恵まれ、時間という概念について考えたことがあります。僕の頭に浮かんだ時間とは天体、つまり月と太陽でした。陽のあるうちは一生懸命仕事をして、陽が落ちたらシャンパンとともにゆったりと過ごしたい。だから時計のデザインも、太陽の部分には文字盤を置き、月の部分にはシャンパンの泡を模したデザインを提案しました。
コロナ禍で人々はより時間を意識するようになったのではないでしょうか。僕はスタッフに「デザイナーになりたいのなら、具体的に何年後、どういう自分になっていたいのかを考えることは大切だよ」とよく話します。それが例えば、こういう物件をデザインしたい、こういう生活がしたい、こういうクルマに乗りたいでもいい。具体的な目標を持って仕事をするのと、漠然と日々の仕事をするのとでは、時とともに歴然とした差が生まれるからです。僕も自分なりの目標を常に持っているし、過去を振り返っても、5年ごとに時間軸を区切って考え、それを実現しようと努力してきました。
仕事においてタイムマネジメントも重要な能力のひとつです。オフィスではスタッフやクライアントとのミーティングに時間を割くことが多く、デザインを考える時間に限りがあります。そこで僕は毎週月曜日をプランの日としています。場所はどこでもいい。静かな部屋でも、喧騒のある街中のカフェでも、とにかくひとりで頭のなかを整理します。クライアントがやりたいこと、僕が提案したいことを並べ、そこからコンセプトの断捨離をしていく。プロジェクトの軸となるものを見つけ、引き算をしていくと、全体のコンセプトがきれいに見え、すっきりまとまるのです。そうはいっても、この月曜日を空けるのが大変。だけどこれこそ大切なタイムマネジメントなのだと思います。
家で敢えて時間をつくるものといえば、トレーニングと料理の時間でしょうか。トレーニングは朝イチの30分。自分の身体を目覚めさせ、その日のパフォーマンスを上げるために大切なルーティンです。料理は気分転換であり大事な時間。スーパーで美味しそうなものを買い、それを見て何を作ろうかと考えるのも楽しい。僕はオンオフが自然と切り替わるタイプなので、わりと無駄なく時間を使っている気がします。
そして時間といえば、最近は人生の終わり方についても考えるようになりました。仕事をリタイアすることを考える人もいれば、死ぬまで働きたいと言う人もいる。僕はどちらかといえば後者でしょうか。何よりデザインが好きだし、デザインの仕事をしないほうがストレスになるからです。その延長で、自分のお墓もデザインしたいなと考えています。息を引き取ってからのほうが長い時間を過ごすので、居心地のいいお墓にしないとですよね(笑)。スイスのローザンヌに、デザイナーのココ・シャネルが眠るお墓があるのですが、ここがとても素敵な墓地なのです。入り口には素敵なお花屋さんがあり、故人と語り合えるようなベンチもある。僕の場合はやはり石で作ったシャンパングラスを墓石に置き、来てくださった方と、お酒を飲みながら語り合いたいですね。
Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍し、2019年オープンの「東急プラザ渋谷」の商環境デザインを手がける。その傍ら、’15年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」はこちら。