新世代のアーティストやクリエイター、表現者の仕事観に迫る連載「NEXT GENERATIONS」。今回は、4月29日にデビューアルバム『de l'amour』が発売となるCocomiをクローズアップ。今、世界で活躍するクラシック界のスター達が集結した記念すべきデビュー作品に期待が集まっている。フルート奏者Cocomiに、音楽の原体験や探究心の源泉を聞いた。インタビュー後編。【前編はこちら】
リスナーとしてのCocomiの音楽体験が生きたデビューアルバムに
レコーディングで、Cocomiは自分を表現するために、広い空間に自分を解き放つように演奏したそうだ。
「『de l’amour』は東京の大久保にあるFREEDOM STUDIO INFINITYでレコーディングしました。でも、編曲を手掛けてくださった村松崇継さんのアドバイスで、広いホールにいる気持ちで演奏しています。スタジオとは思えないほど、遠くまで音が届いていく気持ちになりました。最初に録音した『ヴォカリーズ』と『アヴェ・マリア』の演奏ではとくに実感しました」
さらに、頭の中で物語を描きながら演奏した。
「たとえば『愛の小径』では、大人の女性の気持ちをイメージして、失った美しい恋の思い出に浸り、フルートを吹いています。すると、頭のなかにさまざまな物語が描かれていきます。そういう気持ちで演奏すると、不思議と景色が見えるようになるのです。しかも、村松さんの編曲によって、私自身観たことのない別の景色も体験できます。この曲では、パリのカフェにいる男性のシーンが見えました。素敵な男性ですが、だからといって私の好みのタイプというわけではなくて。架空の物語を音楽で描いているような感覚です」
演奏するCocomiの頭の中で物語が生まれ、そして村松崇継の編曲によってさらに別の物語も生まれる。1つの曲でも、Cocomiはいくつもの物語を頭の中に描いて演奏できたという。
「自分がよく知っていた曲でも、編曲によって、ギター、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロなどさまざまな楽器のさまざまな編成で私が見たことのない景色を見させていただきました。村松さんからの視点を体験して、同じ曲のなかの別の世界をのぞかせてもらえました。新しい、大きな発見でした」
このように音で物語を描くことは、リスナーとしてのCocomiの音楽体験とかかわっている。
「私は子どものころからアニメが好きで、とくにスタジオジブリの作品を観てきました。音楽を始めるきっかけは、『耳をすませば』に感銘を受けたこです」
スタジオジブリの『耳をすませば』の主題歌はジョン・デンバーの「カントリー・ロード」。物語のヒロインの月島雫が、心惹かれる天沢聖司の演奏で歌っている。
「あの映画を観たことでヴァイオリンを始め、音楽の道が開かれていったので。私は好きな曲のプレイリストを自作してくり返し聴いていて、『平成狸合戦ぽんぽこ』の『あんたがたどこさ』や『ハウルの動く城』の『空中散歩』をずっとループしていました。スタジオジブリの作品は、今音楽をやっている私にとってとても大切な体験です。音楽家としての自分の原点がアニメだったからこそ、いつも架空の物語のサウンドトラックをつくる気持ちで演奏しています」
フルートを極めたい──という欲求
ヴァイオリンからフルートに転向したのは11歳のとき。そこから9年で、どんな壁があったのだろう。
「小さな壁が毎日、毎秒あると感じています。練習しているときに、いつも。でも、それを乗り越えられたときは、たとえ1ミリでも自分が成長している証です。前に進みたいという気持ちはとても強くて。私は常にチャレンジしていきたい。もちろん落ち込むことは多いですけれど、フルートを手放したいと思うほどの苦しみはまだありません。探求心ばかりです。フルートを極めたい──という欲求がとても強くあります。レコーディングに臨むときに信頼する音楽家から、ふだんの100倍で表現して! と言われたことがあり、そのときは楽譜の一番上に大きな文字で“100倍”と書きました。
『de l’amour』が完成してプレイバックをした時に、すでに自分なりの反省点がありました。今レコーディングしたら、また違った『de l’amour』になるかもしれません」
今20歳。今後長いキャリアを重ねていく。
「これからも音楽を軸に、モデルやそのほかのお仕事も続けていきたい。いろいろな仕事を行えば、それだけ音楽の可能性も広がっていくと思っています。さまざまな現場でさまざまな人と仕事をご一緒することによって、私の音楽のバリエーションも増えていく。それを楽しみにしています」
Cocomi
3歳からヴァイオリン、そして11歳にフルートを始める。
ヴラディーミル・アシュケナージ、エマニュエル・パユのマスタークラスを修了。
これまでに、ヤマノジュニアフルートコンクール優秀賞3回、最優秀賞1回並びに特別賞受賞。2019年には、日本奏楽コンクールで最高位を受賞。管楽器部門第1位とともにフランス近代音楽賞受賞。
現在、桐朋学園大学音楽学部 カレッジ・ディプロマ・コースに在学中。フルートをNHK交響楽団首席フルート奏者である神田寛明氏に師事。
2021年1月には、東京フィルハーモニー交響楽団の「ニューイヤーコンサート2021」にソリストとして出演。同年、京都の西本願寺で無観客で収録された「音舞台」への出演も果たす。
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