2022年に創立50周年を迎える新日本プロレス。団体を牽引するプロレスラー、レインメーカーことオカダ・カズチカが自身のポリシーやプライベートを綴った『「リング」に立つための基本作法』が発売中。そのなかから一部を抜粋して紹介する。
オスの本能で闘う
レスラーにとってチャンピオンベルトを失うことは、失恋に近い。別の男に恋人を奪われたような感覚だ。
初めてIWGPヘビー級のベルトを腰に巻いたときは、嬉しくて自宅に持ち帰った。眠るときもかたわらに置き、家族にも見せた。
婚約者とベッドに入り、家族に紹介するような気持ちだった。
それからは必死だ。
「君のことを生涯大切に守る!」
ベルトに誓う。失わないように精進し、コンディションを整え、ベルトにふさわしい自分であろうと努める。
だから、タイトルマッチで敗れてベルトを奪われると、失恋したような気持ちになる。
「行かないでくれ!」
心のなかで叫ぶが、ベルトは振り向いてはくれない。
失恋には、二つの苦しみがあると思っている。
一つ目は、純粋に振られることによる心のダメージだ。
二つ目は、好きな女性がほかの男と濃密な時間を過ごしている事実から受ける苦しみだ。自分が食事をしているとき、あるいは入浴しているとき、好きな女性がほかの男とベッドに入っているかもしれない。それを想像すると、頭がどうにかなってしまいそうになる。
ベルトも同じなのだ。昨日まで自分と濃密な時間を共有していたのに、今は別の男といる。一緒にベッドに入っているかもしれない。それを思うと、胸がかきむしられるような感覚になる。
自分の次のチャンピオンが別の挑戦者と防衛戦をやるのを見ると、僕の恋人だった女性を別の男二人が奪い合うのを見るようなもので、彼女が遠いところに行ってしまった悲しさ、虚しさを覚える。
しかし、彼女への愛情はいささかも衰えない。それどころか、思いは増すばかり。なにしろたくさんのかけがえのない時間を共有してきたのだ。
だからこそ、気持ちを立て直し、奪い返しに行く。ライバルたちを蹴散らし、挑戦権を獲得する。タイトルマッチのリングに上がると、“恋敵”であるチャンピオンを完膚なきまでに叩きのめそうとする。
プロレスに限らず、ボクシングやキックボクシングのようなチャンピオンベルトを巻く格闘家たちは、最愛の女性を奪う、あるいは奪い返すというオスの本能で闘っているのではないだろうか。
人間も動物。オスはメスを獲得するときにはなりふり構わない。そして、自分の持つエネルギーを最大限爆発させる。
オカダ・カズチカ
1987年愛知県安城市生まれ。15歳のときにウルティモ・ドラゴンが校長を務める闘龍門に入門。16歳でメキシコのアレナ・コリセオにおけるネグロ・ナバーロ戦でデビューを果たす。2007年、新日本プロレスに移籍。11年からはレインメーカーを名乗り、海外修行から凱旋帰国した12年、棚橋弘至を破りIWGP ヘビー級王座を初戴冠。また、G1 CLIMAX に初参戦し、史上最年少の若さで優勝を飾る。14年、2度目のG1制覇。16年、第65代IWGP ヘビー級王座に輝き、その後、史上最多の12回の連続防衛記録を樹立。21年、G1 CLIMAX 3度目の制覇を成し遂げる。得意技は打点の高いドロップキック、脱出困難なマネークリップ、一撃必殺のレインメーカー。191cm、107kg。